7月から9月までの夏休みの期間には、大変多くの方が、海外(中国及び中国国外)へ渡航されることと思いますが、安全かつ快適に旅行し、無事に帰国するために、現在、海外で注意すべき感染症について、以下のとおりお知らせいたします。
感染症にかからないようにするためには、感染症に対する正しい知識と予防方法を身につけることが重要です。基本的な感染症対策として、飲料水、虫刺され(蚊やダニなど)、動物との接触には注意が必要になります。
海外に渡航を予定されている方は、出発前に旅行プランに合わせ、渡航先での感染症の発生状況に関する最新の情報を入手し、適切な感染予防に心がけてください。
また、日本に立ち寄る場合には、日本の空港や港の検疫所では健康相談を行っています。帰国時に発熱がある等、具合が悪い場合には積極的に検疫所係官にご相談ください。
感染症には潜伏期間(感染してから発症するまでの期間)が長いものもあり(数日から1週間以上)、帰国後しばらく経過してから具合が悪くなることがあります。その際は早急に医療機関で受診し、渡航先、滞在期間、動物との接触の有無などについて必ず申し出てください。
1.動物由来感染症 (中国でも要注意)
犬、サル、げっ歯類、鳥類をはじめとする動物との接触によって人が感染する病気(動物由来感染症)です。
(1)H5N1型鳥インフルエンザ
H5N1型鳥インフルエンザは、東南アジアから欧州、アフリカへと拡大し、トリからヒトヘの感染事例も増加しています。世界保健機関(WHO)によると、2003年11月以降、世界15カ国で385人が感染し、うち243人が死亡したことが確認されています(2008年6月19日現在)。
鳥インフルエンザは、感染した鳥の解体調理、飼育小屋などの閉鎖的な空間における感染した鳥との接触など、鳥の臓器、体液、糞などと濃厚に接触することによってまれにヒトに感染することがあります。
○発生地域(ヒトヘの感染):東南アジアを中心に欧州、中東、アフリカの一部地域など(トリートリ感染発生地域及びトリーヒト感染発生地域については、以下の厚生労働省検疫所HPを参照下さい)
○感染要因:感染した鳥や臓器、体液、糞などとの濃厚な接触
○主な症状:1~10日(多くは2~5日)の潜伏期間ののち、発熱、呼吸器症状、下痢、多臓器不全等
○感染予防:鳥との接触を避け、むやみに触らない。
生きた鳥が売られている市場や養鶏場にむやみに近寄らない。
マスクの着用、うがい手洗いの励行。
○参考情報:
厚生労働省「鳥インフルエンザに関する情報」:
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou02/index.html
厚生労働省検疫所「高病原性鳥インフルエンザ」:
http://www.forth.go.jp/tourist/kansen/35_hpai.html
国立感染症研究所感染症情報センター「疾患別情報:鳥インフルエンザ」:
http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html
(2)狂犬病 (中国でも要注意)
狂犬病は、感染動物(主として犬)に咬まれることよってそれらの唾液からウイルスに感染し、長い潜伏期の後に発症します。発病すると、有効な治療法はなくほぼ100%死亡します。世界における死者数は毎年5万5千人といわれています。
我が国では、海外で犬に咬まれ帰国後に発症し死亡した事例が平成18年に2例報告されています。
○発生地域:世界のほとんどの地域。特にアジア、アフリカ(発生がない地域は、英国、北欧、豪州、台湾、ハワイ、グアムなど一部)。
○感染要因:動物(特に犬が多いですが、ネコ、アライグマ、キツネ、スカンク、コウモリ等からの感染も見られます。)からの咬傷など
○主な症状:1~3ヵ月の潜伏期間の後、発熱、咬まれた場所の知覚異常、恐水・恐風症状、神経症状。
○感染予防:動物(特に野犬)との接触を避ける。もしも犬などから咬傷を受けた場合は、速やかに医療機関で受診し、消毒、暴露後予防接種などを受ける。
感染後、直ちにワクチン接種等による治療を開始することにより狂犬病の発症を防ぐことができます。万一、犬などの動物に咬まれた場合は、すぐに傷口を石けんと水でよく洗い、できるだけ早く現地の医療機関で受診し、傷口の消毒や必要に応じて狂犬病ワクチンの接種を受けましょう。帰国時には検疫所に申し出て指示を受けてください。
○参考情報:
厚生労働省「狂犬病について」:
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/index.html
(3)エボラ出血熱
我が国では感染症法で一類感染症、検疫法で検疫感染症として規定されています。
○発生地域:アフリカ(中央部~西部)
○感染要因:感染したサルの血液、分泌物、排泄物、唾液などとの接触でも感染する可能性はありますが、ウイルスを保有する未知の自然宿主が媒介すると考えられています。
○主な症状:2~21日の潜伏期ののち、発熱、頭痛、下痢、筋肉痛、吐血、下血など。インフルエンザ、チフス、赤痢等と似た症状を示します。
○感染予防:流行地への旅行を避ける。野生動物との接触に注意する。
(4)マールブルグ病(マールブルグ熱・マールブルグ出血熱)
我が国では感染症法で一類感染症、検疫法で検疫感染症として規定されています。
○発生地域:アフリカ(中央部~南部)
○感染経路:サルの血液、分泌物、排泄物、唾液などとの接触により感染する例が多いですが、ウイルスを保有する未知の自然宿主が媒介すると考えられています。最近では、コウモリから感染した可能性のある事例も報告されています。ヒトからヒトへの感染は感染防御具(手袋・マスク)の不備によるものが多いです。
○主な症状:3~10日の潜伏期ののち、初期には発熱、頭痛、悪寒、下痢、筋肉痛など。その後体表に斑状発疹、嘔吐、腹痛、下痢、出血傾向。
○感染予防:流行地への旅行を避ける。野生動物との接触に注意する。
○参考情報:
厚生労働省「マールブルグ病に関する海外渡航者への注意喚起について」:
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou25/index.html
2.蚊など節足動物を介して感染する感染症
渡航先(国・地域)や渡航先での活動によって、感染する可能性のある感染症は大きく異なりますが、世界的に蚊が媒介する感染症が多く報告されています。特に熱帯・亜熱帯地域ではマラリア、デング熱、チクングニヤ熱などに注意が必要となり、北米ではこれから秋にかけてウエストナイル熱の流行が予想されます。
(1)マラリア
毎年世界中で数億人の患者、150万~270万人の死者がいると報告されています。我が国では、海外で感染して帰国される方(輸入症例)が毎年数十名報告されています。
○発生地域:アジア、中南米、アフリカなど熱帯・亜熱帯地域に広く分布
○感染経路:マラリア原虫を保有した蚊に吸血された際に感染します。媒介蚊は森林地帯を中心に夜間に出没する傾向。
○主な症状:病原原虫の種類により10日~30日の潜伏期ののち、悪寒、発熱、顔面紅潮、呼吸切迫、結膜充血、嘔吐、頭痛、筋肉痛など。迅速かつ適切に対処しなければ重症化し死亡する危険があります。
○感染予防:被服や防虫スプレー等により、特に夜間の外出時に蚊に刺されないよう注意してください。
○参考情報:
厚生労働省検疫所「マラリア」:http://www.forth.go.jp/tourist/kansen/07_mala.html
国立感染症研究所感染症情報センター「疾患別情報:マラリア」:
http://idsc.nih.go.jp/disease/malaria/index.html
(2)デング熱、デング出血熱
毎年世界中で約5,000万~1億人の患者が報告され、そのうち約25万人が重症化しやすいデング出血熱を発症していると推定されています。
我が国では、海外で感染して帰国される方が毎年数十名報告されています。ここ数年増加傾向となっていますので注意が必要です。
○発生地域:アジア、中南米、アフリカなど熱帯・亜熱帯地域に広く分布。
○感染経路:ウイルスを保有した蚊に吸血された際に感染します。媒介蚊は日中、都市部にも出没します。
○主な症状:突然の発熱、激しい頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹。デング熱患者の一部は重症化して出血傾向がみられるデング出血熱となることがあります。
○感染予防:被服や防虫スプレー等によって、日中蚊に刺されないように注意してください。
○参考情報:
厚生労働省検疫所「デング熱」:http://www.forth.go.jp/tourist/kansen/09_dengu.html
国立感染症研究所感染症情報センター「疾患別情報:デング熱」:
http://idsc.nih.go.jp/disease/dengue/index.html
(3)ウエストナイル熱・脳炎
鳥と蚊で感染が維持されている感染症です。北米地域で毎年数千人の感染者が報告されています。感染者の一部は重症化し脳炎を起し、まれに死亡することもあります。
我が国では、米国滞在中に感染し帰国後にウエストナイル熱と診断された事例が平成17年に1例報告されています。
○発生地域:アフリカ、欧州南部、中東、アジア、近年では北米地域、中南米にも拡大しています。
○感染経路:ウイルスを保有した蚊に吸血された際に感染します。媒介する蚊は多種類に及びます。
○主な症状:2~14日(通常1日~6日)の潜伏期のち、発熱、激しい頭痛、関節痛、筋肉痛、背部痛、皮疹など。
○感染予防:被服や防虫スプレー等によって、日中蚊に刺されないように注意してください。
○参考情報:
厚生労働省「ウエストナイル熱について」:
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou08/index.html
厚生労働省検疫所「ウエストナイル熱」:
http://www.forth.go.jp/tourist/kansen/10_west.html
国立感染症研究所「ウエストナイルウイルス」
http://www.nih.go.jp/vir1/NVL/WNVhomepage/WN.html
(4)チクングニヤ熱
東南アジア、特にインド洋沿岸の国々で流行しており、2006年にはインドで約140万人の感染者が報告されています。
我が国では、海外で感染して帰国後にチクングニヤ熱と診断された事例が平成19年に2例報告されています。
○発生地域:アフリカ、インド、スリランカ、東南アジア、2007年にはイタリアで流行。
○感染経路:ウイルスを保有した蚊に吸血された際に感染します。
○主な症状:2~3日の潜伏期ののち、突然の発熱、激しい頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹。
○感染予防:被服や防虫スプレー等によって、日中蚊に刺されないように注意してください。
3.食べ物、水を介した感染症
渡航先や渡航先での行動内容によって、かかる可能性のある感染症はさまざまですが、最も多いのは食べ物や水を介した消化器系の感染症です。
A型肝炎、コレラ、赤痢などは熱帯・亜熱帯地域で感染することが多い感染症です。生水、氷、サラダ、生鮮魚介類等、十分に熱処理がされていない物の飲食に注意してください。
4.その他注意すべき感染症
上記のほかにも、動物、水、食べ物等を通じて感染する病気が多く存在します。
詳細は厚生労働省ホームページを参照ください。
(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/natuyasumi/dl/2008e.pdf)
5.海外の感染症に関する情報の入手
海外の感染症に関する情報は、以下のサイトより入手することが可能ですので、渡航前に確認することをお勧めいたします。
厚生労働省検疫所(海外渡航者のための感染症情報)ホームページ
http://www.mofa.forth.go.jp
国立感染症研究所感染症情報センター(感染症別の詳細情報)
http://www.nih.go.jp/disease.html
外務省ホームページ(世界の医療事情)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html
(問い合わせ先)
○外務省領事局政策課(医療情報)
電話:(代表)03-3580-3311(内線)2850
○外務省海外安全相談センター(国別安全情報等)
電話:(代表)03-3580-3311(内線)2902
○外務省海外安全ホームページ:http://www.anzen.mofa.go.jp/
http://www.anzen.mofa.go.jp/i/(携帯版)
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