7月から9月までの期間には、夏休み等を利用して多くの方が海外へ渡航されることと思いますが、健康で安全に旅行し、無事に帰国するために、現在、海外で注意すべき感染症及びその予防対策について、以下のとおりお知らせいたします。
感染症にかからないようにするためには、感染症に対する正しい知識と予防方法を身につけることが重要です。基本的な感染症対策として、食べ物、飲料水、虫刺され(蚊やダニなど)、動物との接触には注意が必要です。
海外渡航を予定されている方は、出発前に旅行プランに合わせ、渡航先での感染症の発生状況に関する最新の情報を入手し、適切な感染予防に心がけてください。
また、日本の空港や港の検疫所では健康相談を行っています。帰国時に発熱や下痢等、具合が悪い場合にはお気軽に検疫所係官にご相談ください。
感染症には潜伏期間(感染してから発症するまでの期間)が長いものもあり(数日から1週間以上)、帰国後しばらく経過してから具合が悪くなることがあります。その際は早急に医療機関にて受診し、渡航先、滞在期間、動物との接触の有無などについて必ず申し出てください。
1.新型インフルエンザ(A/H1N1)
2009年4月に発生が確認された当初は、メキシコから米国、カナダなど北米地域を中心に感染例が報告されていましたが、2009年5月以降、我が国を含めて世界に拡大しており、冬場を迎えた南米やオーストラリアなどでは患者が急速に増加しています。世界保健機関(WHO)によると2009年7月現在までに世界117か国18地域で約95,000人の発症者(死亡者429人)が報告されています。
○発生地域:北米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリア、中南米など
○感染要因:感染した人の咳、くしゃみなどとともに放出されたウイルスを含む飛沫を 吸い込む飛沫感染、または感染した人が咳・くしゃみを手で押さえた後などに他のもの(机、ドアノブ、つり革など)に触ってウイルスが付着した面に健康な人が手で触れた後に目、鼻、口などに触れる接触感染
○主な症状:1~7日(多くは1~4日)の潜伏期間ののち、突然の高熱、咽頭痛、咳・く しゃみ、鼻水、下痢、筋肉痛など
○感染予防:ホームページなどで流行情報を確認し、発生している地域では人混みを避 ける。外出後には手洗いとうがいを励行する。症状がある人との濃厚な接触を避ける。濃厚な接触が避けられない場合はマスクを着用する。
一般的には比較的軽症で回復する場合が多く、また発症後早期の抗ウイルス薬(オセルタミビル、ザナミビルなど)使用が有効とされています。
基礎疾患(慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、糖尿病などの代謝性疾患、ステロイド内服などによる免疫不全など)がある方、妊婦や幼児では感染した際に重症化する危険が高いとされ、注意が必要です。
出発前にインフルエンザ様の症状があらわれた方は、旅行を延期・中止するなどして、海外で感染を拡大させないための対応が重要です。
なお、中国でも、7月17日現在で1,537例の感染が確認されています(うち治癒1,263例)。
現在、中国国内の各空港での入国時の機内検温は行われていませんが、検疫カウンターでの健康申告カードの提出とサーモグラフィーによる発熱チェックは引続き行われており、37.5℃(空港によっては37.0℃)以上の発熱あるいは急性呼吸器症状のある者に対する医学的措置も引続きとられています。
○参考情報:
厚生労働省「新型インフルエンザ関連対策情報」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html
国立感染症研究所感染症情報センター「新型インフルエンザA(H1N1)」
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/index.html
2.動物由来感染症
犬、サル、げっ歯類(注)、鳥類をはじめとする動物との接触によって人が感染する病気(動物由来感染症)です。
(注:哺乳類に属する動物の分類群で、マウス、ラット、リスなど、ネズミの仲間)
(1)鳥インフルエンザ(H5N1)
H5N1亜型インフルエンザウイルスを病原体とする鳥インフルエンザ(H5N1)は、東南アジアを中心に家きん(ニワトリ、アヒルなど)での発生が報告されています。鳥インフルエンザは、感染した鳥の解体調理、飼育小屋などの閉鎖的な空間における感染した鳥との接触など、鳥の臓器、体液、糞などと濃厚に接触することによってまれに人が感染することがあります。人が感染した場合には、重篤な症状となることが多く、世界保健機関(WHO)によると、2003年11月から2009年7月1日までに世界15か国で436人の発症者(うち死亡者262人)が報告されています。
○発生地域(ヒトヘの感染):東南アジアを中心に、中東・ヨーロッパ・アフリカの一部地域など
○感染要因:感染した鳥や臓器、体液、糞などとの濃厚な接触
○主な症状:1~10日(多くは2~5日)の潜伏期間ののち、発熱、呼吸器症状、下痢、多臓器不全等
○感染予防:鳥との接触を避け、むやみに触らない。
生きた鳥が売られている市場や養鶏場にむやみに近寄らない。
手洗いうがいの励行(特に発生国では徹底してください)。
今年に入り、中国、エジプト、ベトナムの3カ国で41人(死亡者12人)の患者が発生していますが、そのうち30人(死亡者4人)は、エジプトで発生しています(2009年7月1日現在) 。
エジプト政府は、6月に1才の男児2人、4才の女児1人の鳥インフルエンザ(H5N1)感染事例を報告しています(発症前に死亡若しくは衰弱した家きんに濃厚接触歴あり)。報告では全例が入院し、タミフル投与による治療を受け、既に2人は退院、1人の容態も安定しているとのことです。
○参考情報:
厚生労働省「鳥インフルエンザに関する情報」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou02/index.html
厚生労働省検疫所「高病原性鳥インフルエンザ」
http://www.forth.go.jp/tourist/kansen/35_hpai.html
国立感染症研究所感染症情報センター「疾患別情報:鳥インフルエンザ」
http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html
(2)狂犬病
狂犬病は、感染動物(主として犬)に咬まれることよってその唾液からウイルスに感染し、長い潜伏期の後に発症すると有効な治療法は無く、ほぼ100%死亡します。世界における死者数は毎年5万5千人といわれています。感染後、直ちに暴露後ワクチンを接種することにより発症を防げます。
我が国では、海外で犬に咬まれ帰国後に発症し死亡した事例が2006年に2例報告されています。
○発生地域:世界のほとんどの地域。特にアジア、アフリカ(発生がない地域は、英国、北欧、豪州、台湾、ハワイ、グアムなど一部)。
○感染要因:動物(特に犬が多いですが、ネコ、アライグマ、キツネ、スカンク、コウ モリ等からの感染も見られます。)からの咬傷など
○主な症状:1~3ヵ月の潜伏期間の後、発熱、咬まれた場所の知覚異常、恐水・恐風症状、神経症状。
○感染予防:動物(特に犬)との接触を避ける。もしも犬などから咬傷を受けた場合は、速やかに医療機関を受診し、消毒、暴露後ワクチンの接種などを受ける。
感染後、直ちにワクチン接種等による治療を開始することにより狂犬病の発症を防ぐことができます。万一、犬などの動物に咬まれた場合は、すぐに傷口を石けんと水でよく洗い、できるだけ早く現地の医療機関を受診し、傷口の消毒や必要に応じてワクチンの接種を受けましょう。帰国時には検疫所に申し出て指示を受けてください。
○2008年11月、インドネシアのバリ島で狂犬病に感染した犬が確認され、犬に噛まれたとされる住民数人が狂犬病で死亡したと報告されていますので、御注意ください。
○参考情報:
厚生労働省「狂犬病について」:
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/index.html
(3)エボラ出血熱
我が国では感染症法で一類感染症、検疫法で検疫感染症として規定されています。
○発生地域:アフリカ(中央部~西部)
○感染要因:感染したサルの血液、分泌物、排泄物、唾液などとの接触でも感染する可能性はありますが、ウイルスを保有する未知の動物が媒介すると考えられています。
○主な症状:2~21日の潜伏期ののち、発熱、頭痛、下痢、筋肉痛、吐血、下血など。インフルエンザ、チフス、赤痢等と似た症状を示します。
○感染予防:流行地への旅行を避ける。野生動物との接触に注意する。
2008年12月、フィリピンの養豚農場でエボラウイルスに感染した豚が発見された旨報告されています。その際に検出されたウイルスは人への病原性を示した報告がないタイプですが、念のため養豚農場にむやみに立ち入らないようにしてください。
(4)マールブルグ熱
我が国では感染症法で一類感染症、検疫法で検疫感染症として規定されています。
○発生地域:アフリカ(中央部~南部)
○感染経路:サルの血液、分泌物、排泄物、唾液などとの接触により感染する例が多いですが、ウイルスを保有する未知の自然宿主が媒介すると考えられています。最近では、コウモリから感染した可能性のある事例も報告されています。人から人への感染の多くは感染防御具(手袋・マスク)の不備によるものです。
○主な症状:3~10日の潜伏期ののち、初期には発熱、頭痛、悪寒、下痢、筋肉痛など。その後体表に斑状発疹、嘔吐、腹痛、下痢、出血傾向。
○感染予防:流行地への旅行を避ける。野生動物との接触に注意する。
2008年7月、ウガンダの洞窟ツアーに参加したオランダ人旅行者が感染して重症となるケースが発生したことが報告されています。感染源と思われるコウモリのいる洞窟には立ち入らないよう御注意ください。
○参考情報:
厚生労働省「マールブルグ病に関する海外渡航者への注意喚起について」:
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou25/index.html
3.蚊などを介して感染する感染症
渡航先(国・地域)や渡航先での活動によって、感染する可能性のある感染症は大きく異なりますが、世界的に蚊が媒介する感染症が多く報告されています。特に熱帯・亜熱帯地域ではマラリア、デング熱、チクングニヤ熱などに注意が必要となります。
(1)マラリア
毎年世界中で約2億5000万人以上の患者、80万人以上の死亡者がいると報告されています。我が国では、海外で感染して帰国される方(輸入症例)が毎年数十人報告されています。
○発生地域:アジア、中南米、アフリカなど熱帯・亜熱帯地域に広く分布
○感染経路:マラリア原虫を保有した蚊に刺された際に感染します。媒介蚊であるハマダラカは森林地帯を中心に夜間に出没する傾向。
○主な症状:病原原虫の種類により10日~30日の潜伏期ののち、悪寒、発熱、顔面紅潮、呼吸切迫、結膜充血、嘔吐、頭痛、筋肉痛など。迅速かつ適切に対処しなければ重症化し死亡する危険があります。
○感染予防:被服や防虫スプレー等により、ハマダラカに刺されないよう注意する。特に夜間の屋外での飲食時や外出時に蚊に刺されないよう注意してください。
○参考情報:
厚生労働省検疫所「マラリア」:
http://www.forth.go.jp/tourist/kansen/07_mala.html
国立感染症研究所感染症情報センター「疾患別情報:マラリア」:
http://idsc.nih.go.jp/disease/malaria/index.html
(2)デング熱、デング出血熱
世界中で25億人が感染するリスクがあり、毎年約5,000万人の患者が報告されています。
我が国では、海外で感染して帰国される方が毎年数十人報告されていますが、2008年は100人を超え、増加傾向となっていますので注意が必要です。
○発生地域:アジア、中南米、アフリカなど熱帯・亜熱帯地域に広く分布。
○感染経路:ウイルスを保有した蚊に刺された際に感染します。媒介蚊は日中、都市部の建物内にも出没します。
○主な症状:突然の発熱、激しい頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹。デング熱患者の一部は重症化して出血傾向がみられるデング出血熱となることがあります。
○感染予防:被服や防虫スプレー等によって、日中蚊に刺されないように注意してください。
マレーシアでは2009年1月から7月4日までで、25,234症例が報告され、62人が死亡しています。
我が国では、海外で感染して帰国後に本病と診断された合計14例の事例(インドネシア2例、カンボジア1例、スリランカ1例、ボリビア1例、バヌアツ1例、東チモール1例、トンガ・マーシャル諸島1例、ベトナム1例、トンガ1例、マレーシア1例、バングラデシュ1例、タイ1例、シンガポール・マレーシア1例)が報告されています(2009年6月1日現在。国名は渡航先)。
○参考情報:
厚生労働省検疫所「デング熱」
http://www.forth.go.jp/tourist/kansen/09_dengu.html
国立感染症研究所感染症情報センター「疾患別情報:デング熱」
http://idsc.nih.go.jp/disease/dengue/index.html
国立感染症研究所「デングウイルス感染症情報」
http://www0.nih.go.jp/vir1/NVL/dengue.htm
(3)チクングニヤ熱
東南アジアや南西アジア、特にインド洋沿岸の国々で流行しており、2006年にはインドで約140万人の感染者が報告されています。
我が国では、海外で感染して帰国後にチクングニヤ熱と診断された事例がスリランカから2例、インドから2例、マレーシアから2例、インドネシアから4例の合計10例が報告されています(2009年5月31日)。
○発生地域:東南アジア(マレーシア、タイ、インドネシア、シンガポールなど)、インド、パキスタン、スリランカ等のインド洋島嶼国、アフリカ。2007年にはイタリアで流行。
○感染経路:ウイルスを保有した蚊に刺された際に感染します。
○主な症状:2~12日(通常4日~8日)の潜伏期ののち、突然の発熱、激しい頭痛、関節痛、筋肉痛、発疹。関節痛は急性症状消失後も数ヶ月続くことが多い。
○感染予防:被服や虫除けスプレー等によって、日中、建物内のみならず屋外でもヤブカ類に刺されないように注意してください。
○マレーシアでは、2009年1月から7月4日までで既に2,873人の患者が報告されています。
○シンガポールでは、2009年第25週までで299人の患者が報告されています。
○タイでは、2009年第11週までで10,559人の患者が報告されています。
○参考情報:
国立感染症研究所感染症情報センター「疾患別情報:チクングニヤ熱」:
http://idsc.nih.go.jp/disease/chikungunya/index.html
国立感染症研究所「チクングニヤウイルス感染症」:
http://www0.nih.go.jp/vir1/NVL/Aiphavirus/Chikungunyahtml.htm
(4)ウエストナイル熱・脳炎
鳥と蚊で感染が維持されている感染症です。北米地域で毎年数千人の感染者が報告されています。感染者の一部は重症化し脳炎を起し、まれに死亡することもあります。
我が国では、米国滞在中に感染し帰国後にウエストナイル熱と診断された事例が2005年に1例報告されています。
○発生地域:アフリカ、欧州南部、中東、近年では北米地域、中南米にも拡大しています。
○感染経路:ウイルスを保有した蚊に刺された際に感染します。媒介する蚊は多種類に及びます。
○主な症状:2~14日(通常1日~6日)の潜伏期のち、発熱、激しい頭痛、関節痛、筋肉痛、背部痛、皮疹など。
○感染予防:被服や虫除けスプレー等によって、日没後、特に屋外で蚊に刺されないように注意してください。
○2009年4月上旬に、米国カリフォルニア州において死亡したカラスからウエストナイルウイルスが検出され、本年も米国全土で流行することが予想されています。毎年7月頃から患者が増え始め、年末まで報告が続くのが特徴です。
○参考情報:
厚生労働省「ウエストナイル熱について」:
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou08/index.html
厚生労働省検疫所「ウエストナイル熱」:
http://www.forth.go.jp/tourist/kansen/10_west.html
国立感染症研究所「ウエストナイルウイルス」
http://www.nih.go.jp/vir1/NVL/WNVhomepage/WN.html
4.食べ物、水を介した感染症
渡航先や渡航先での行動内容によって、かかる可能性のある感染症はさまざまですが、最も多いのは食べ物や水を介した消化器系の感染症です。
A型肝炎、コレラ、赤痢などは熱帯・亜熱帯地域で感染することが多い感染症です。生水、氷、サラダ、生鮮魚介類等、十分に熱処理がされていない飲食物に注意してください。
5.その他注意すべき感染症
上記のほかにも、動物、水、食べ物等を通じて感染する病気が多く存在します。
詳細は厚生労働省ホームページを参照ください。
(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/natuyasumi/dl/2009.pdf)
6.海外の感染症に関する情報の入手
海外の感染症に関する情報は、以下のサイトより入手することが可能です。出発前に渡航先の感染症の流行状況等に関する情報を入手することをお勧めいたします。また、日本の空港や港の検疫所においても、リーフレット等を用意し情報提供を行っていますので、ご活用ください。
厚生労働省検疫所(海外渡航者のための感染症情報)ホームページ
http://www.forth.go.jp/
国立感染症研究所感染症情報センター(感染症別の詳細情報)
http:// idsc.nih.go.jp/disease.html
外務省海外安全ホームページ(感染症関連情報)
http://www.anzen.mofa.go.jp/
外務省ホームページ(世界の医療事情)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html
(問い合わせ先)
○外務省領事局政策課(医療情報)
電話:(代表)03-3580-3311(内線)2850
○外務省海外安全相談センター(国別安全情報等)
電話:(代表)03-3580-3311(内線)2902
○外務省海外安全ホームページ:http://www.anzen.mofa.go.jp/
http://www.anzen.mofa.go.jp/i/(携帯版)
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