2012年12月に駐中国日本国大使として着任して以来、約1年が過ぎました。日中関係は引き続き厳しい状況にありますが、この間、日中両国の様々な分野で活躍される方々とお会いし、対話を重ねてきました。日中両国の見識ある多くの方々が、現在の日中関係を憂い、両国の関係改善を願っておられることを実感しており、心強く感じています。私は外交にはマジックやミラクルはないと考えており、今後も地道な努力を継続したいと思います。
この1年間で明るい兆しもありました。いくつか例を挙げれば、まず、このような厳しい状況下であっても、政治家や経済界の方を含め、多くの方々が訪中して、中国側との対話、交流をされたことです。現場の大使としては、こうして日本から多くの方が来られることは大変有り難く、それを精一杯サポートすることも大切な仕事だと思っています。また、年後半には、中国からも経済界のハイレベルの代表団が日本を訪問した他、日本政府の青少年交流事業で、多くの中国青少年が訪日しました。まだこうした動きは十分とは言えませんが、2014年以降、こうした交流が加速することを期待しています。観光面では、中国から日本を訪れる観光客数は、徐々に回復傾向にあり、とくに個人観光者数は、年後半から大きく盛り返し、過去最高を記録するまでになっています。また、2012年9月の反日デモで大きく落ち込んだ中国における日本車の販売台数も急速に回復しつつあります。反日デモで襲われた日系デパートが急ピッチで営業を再開できた背景には、日本人と中国人スタッフの力強い団結があったとも伺っています。
また、私は機会を見つけては、中国の地方都市を訪問しています。これまで天津市、海南省、甘粛省、陝西省、重慶市、上海市、広東省、大連市、江蘇省等を訪れましたが、日本企業は中国経済の発展に大いに貢献しています。日中関係が困難な状況であるからこそ、各地で努力されている皆さんを激励し、後押ししたいと考えています。
2013年は「日中平和友好条約」締結35周年でした。10月には35周年を記念して、日本の民間団体である言論NPOとチャイナ・デイリーが「第9回東京-北京フォーラム」を北京で開催しました。その際、私が訴えたことは、今こそ、一人でも多くの方々に、日中両国間の恒久的な平和友好を互いに誓い合った日中平和友好条約の意義を再認識していただきたいということでした。
2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。東京開催が決定されてから、多くの中国の方々からも祝福をいただきました。これから開催までの7年間、日本は「Sport for Tomorrow」をスローガンに開発途上国をはじめとする100カ国以上の国において、1,000万人以上を対象に、世界のよりよい未来のために、未来を担う若者をはじめあらゆる世代の人々にスポーツの価値とオリンピック・ムーブメントを広げていく取り組みを行っていきます。日中の間でもオリンピックに向けて、国民同士の交流が一層盛んになっていくことを期待しています。
日中両国政府は、日中の「戦略的互恵関係」の構築に合意しています。日中関係の発展・推進は両国の基本的利益に合致し、アジアと世界の平和、安定及び発展に対して共に建設的な貢献を行うことが、新たな時代において日中両国に与えられた厳粛な責任であります。現在、日中間には政治的困難がありますが、困難があっても、いや、困難がある時だからこそ、対話と交流を一層推進するべきです。
この40年余りで日中両国の先人たちが築き上げてきた日中関係は、今や幅広く、各分野にわたって深いものになっています。私は、日中関係は簡単に壊れるものではないと確信し、これを更に広げ、深めるためにこれからも努力していく所存ですのでご協力の程宜しくお願い申し上げます。
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