垂大使が中国社会科学院主催「新時代の要求に合致した中日関係の構築を目差して」国際シンポジウム及び日本研究所設立40周年記念式典開幕式に出席(2021年8月28日)
令和3年8月30日


8月28日、垂大使は、中国社会科学院主催の「新時代の要求に合致した中日関係の構築を目差して」国際シンポジウム及び日本研究所設立40周年記念式典開幕式に出席し、挨拶を行いました。
開幕式には、顧秀蓮・全国人民代表大会常務委員会元副委員長、福田康夫・元首相(オンライン参加)、謝伏瞻・中国社会科学院院長、程永華・元駐日本中国特命全権大使らが出席しました。
垂大使による挨拶全文は以下のとおりです。
尊敬する顧秀蓮・元全国人民代表大会副委員長、
福田康夫・日本国元総理大臣、
謝伏瞻・中国社会科学院院長、
程永華・前中国駐日本国特命全権大使、
御来席の皆様、おはようございます。
ただ今御紹介にあずかりました駐中国日本大使の垂秀夫でございます。本日は、中国社会科学フォーラムにお招きいただき誠にありがとうございます。まず初めに、新型コロナウイルスが未だに収まりを見せない中、中国社会科学院日本研究所の皆様の御尽力により、本日、こうして中国社会科学フォーラムが無事開催されますことを心からお喜び申し上げます。
思い返せば、1980年代、私が初めて北京の大使館で勤務して以降、日本研究所とは深い関係にあり、歴代の所長とも初代の何方氏から現在の楊伯江氏に至るまで全ての所長と懇意にさせていただきました。
これまで、数え切れないほど足繁く通った日本研究所が、今年で40周年を迎えることを感慨深く思うと共に、心からお祝い申し上げます。また、日本研究所が中国の発展のために為された努力に対し敬意を表したいと思います。
本年は、日本研究所にとって設立40周年を迎えられますが、明年、日中両国は国交正常化50周年を迎え、記念すべき年が続くことになります。本日の国際シンポジウムのテーマは「新時代の要求に合致した日中関係の構築を目指して」と聞いていますが、「新時代の日中関係」を考えるに当たって、私は、まずは過去の歴史を振り返ることが大事だと思っています。論語にも「温故知新」という言葉があります。我々は過去から新しい知恵を学ぶことができます。さて、50年前の日中国交正常化といえば、何人かの「井戸を掘った人」のことが想起されますが、本日は、とりわけ多くの人から敬愛されている周恩来総理に焦点を当て、日中関係を少し振り返ってみたいと思います。本日、多くの先輩方の前で、私が周恩来総理を語る資格はないかもしれませんが、周恩来総理は、中国のみならず、日本でも多くの方から敬愛される人物であり、私から周恩来総理についてお話させていただくことをお許しください。
戦後の厳しい国際情勢の中で、周恩来総理は、日本との正常な関係を樹立することの重要性を認識され、日本の情勢に強く関心を持たれ、各対外部門に対し、日本に関するあらゆる情報を報告させたと聞きます。中でも毎晩日本のラジオニュースを基に作成される日本情勢の報告書に、まず最初に目を通すのは決まって周恩来総理だったようです。
1972年、日本で田中角栄政権が誕生し、日中国交正常化への意欲が表明されたことを受け、周恩来総理は、すぐさま外交部に対し、中国側としてこれにいかに応えるかをすぐに検討するよう指示を出しました。同時に、周恩来総理は、自らの生活習慣を調整したとも聞いています。当時の周恩来総理の生活スタイルは、夜遅くまで仕事をした後、早朝5時頃に就寝、午前11時頃に起床という夜型の生活スタイルでしたが、田中首相は朝が早いということを知り、将来の田中首相の訪中を見据え、秘書に対し夜遅くに文書を持ち込まないよう指示され、生活スタイルを朝型に変更されたわけでした。
その後、田中首相が訪中し、国交正常化が実現することになりますが、当時、日中共同声明における文言調整は、国内でのプレッシャーを受ける周恩来総理にとって非常に難しい挑戦だったようでした。しかし、周恩来総理は、「日本にも立場があるから、相手を困らせてはならない。外交というのは、原則は守らなければならないが、相手に一歩譲ることも必要である。」と述べられ、日中双方は、何とか日中共同声明の署名に辿り着くことができたと聞いたことがあります。「自国の利益を守ることは当然のことであるが、他国の利益も考えなければならない。」という周恩来総理の崇高な外交理念が、当時日中両国を「新たな時代」へと導いたのです。
昨今、日中関係は必ずしも順調ではありませんが、現在我々に求められているのは、こうした周恩来総理の相手のことを思いやる精神を改めて学び合い、立場が異なる相手であっても誠実に意思疎通を重ねることではないでしょうか。
御来席の皆様、
現在、日中関係をめぐって私が心配しているのは、日中両国の国民感情の問題、とりわけ日本国民の対中感情が悪化している問題であります。
周恩来総理はかつて日本との民間交流を極めて重視しました。国交正常化の前から、日本の農業代表団、松山バレエ団、演劇団、新聞記者代表団等、数多くの日本の民間人と積極的に交流されておられました。現在の日中関係においては、民間交流が大事である、日中関係の基礎は民間にあるとよく言われますが、そのことが真に理解され、政治的理由等から何らの影響も受けずに実施されているでしょうか。このことは、日中両国の関係者が明年の50周年をどう祝うかで試されると考えます。国民感情の悪化を相手国のメディアの報道のせいに帰するだけでは、国民感情は改善されず、何の問題の解決にもなりません。日中双方が一緒になってこの問題の重要性と深刻さを理解し、どのように改善していけばいいのかとの方策につきよく話し合い、そして努力していくことが強く求められています。
習近平主席は本年5月、第30回集団学習会において、「信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージ」を形成しなければならない旨述べられ、また、7月の中国共産党成立100周年祝賀大会においては、「全ての有益な提案と善意ある批判を歓迎する」とも発言されています。重要なことは双方が一緒になって考え、努力していくことではないでしょうか。
日中関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つであることに変わりはなく、これは中国にとっても同じことであると思います。日中両国は、互いに「引っ越し」のできない隣国である以上、様々な摩擦やすれ違いがあることは正常なことであり、だからこそ、自国の国益に基づいて互いに主張すべきは主張しながらも、協力できるところは積極的に協力しなければなりません。日中両国は、今や地域と世界の平和と繁栄に対して、共に大きな責任を有しており、共に協力すれば地域や世界の様々な諸課題に共に貢献することができます。そのためにも私は、中国大使として着任して以来、外部環境に影響されず、長期にわたって安定的かつ建設的な日中関係を構築することこそが何よりも大切であると訴えてきています。
8月8日、東京オリンピックは成功裏に閉幕し、先日24日から東京パラリンピックが開催されています。東京パラリンピックが終われば、次はいよいよ、ここ北京での冬季オリンピック・パラリンピックを迎えることになります。私は駐中国日本大使として、東京での成功が北京での成功につながり、来年の北京冬季オリンピック・パラリンピックが成功裏に開催されることを希望しています。
また、来年2022年は、国交正常化50周年という重要な節目の年に当たります。これからの日中関係を構築していく上で、我々は、ハイレベルを含む緊密な意思疎通を通じて、政治的相互信頼を醸成するとともに、日中の青少年交流を含む民間交流をしっかりと推進し、良好な国民感情を醸成すべく、互いに努力していく必要があります。
そうした意味からも我々大使館と社会科学院、特に日本研究所との間で、公式見解にとらわれることなく、忌憚なき意見が交わされることを強く期待しています。
最後に、本日のフォーラムが成功裏に開催されますこと、そして、日本研究所の益々の御発展と御活躍を祈念して、私からの挨拶とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。
開幕式には、顧秀蓮・全国人民代表大会常務委員会元副委員長、福田康夫・元首相(オンライン参加)、謝伏瞻・中国社会科学院院長、程永華・元駐日本中国特命全権大使らが出席しました。
垂大使による挨拶全文は以下のとおりです。
尊敬する顧秀蓮・元全国人民代表大会副委員長、
福田康夫・日本国元総理大臣、
謝伏瞻・中国社会科学院院長、
程永華・前中国駐日本国特命全権大使、
御来席の皆様、おはようございます。
ただ今御紹介にあずかりました駐中国日本大使の垂秀夫でございます。本日は、中国社会科学フォーラムにお招きいただき誠にありがとうございます。まず初めに、新型コロナウイルスが未だに収まりを見せない中、中国社会科学院日本研究所の皆様の御尽力により、本日、こうして中国社会科学フォーラムが無事開催されますことを心からお喜び申し上げます。
思い返せば、1980年代、私が初めて北京の大使館で勤務して以降、日本研究所とは深い関係にあり、歴代の所長とも初代の何方氏から現在の楊伯江氏に至るまで全ての所長と懇意にさせていただきました。
これまで、数え切れないほど足繁く通った日本研究所が、今年で40周年を迎えることを感慨深く思うと共に、心からお祝い申し上げます。また、日本研究所が中国の発展のために為された努力に対し敬意を表したいと思います。
本年は、日本研究所にとって設立40周年を迎えられますが、明年、日中両国は国交正常化50周年を迎え、記念すべき年が続くことになります。本日の国際シンポジウムのテーマは「新時代の要求に合致した日中関係の構築を目指して」と聞いていますが、「新時代の日中関係」を考えるに当たって、私は、まずは過去の歴史を振り返ることが大事だと思っています。論語にも「温故知新」という言葉があります。我々は過去から新しい知恵を学ぶことができます。さて、50年前の日中国交正常化といえば、何人かの「井戸を掘った人」のことが想起されますが、本日は、とりわけ多くの人から敬愛されている周恩来総理に焦点を当て、日中関係を少し振り返ってみたいと思います。本日、多くの先輩方の前で、私が周恩来総理を語る資格はないかもしれませんが、周恩来総理は、中国のみならず、日本でも多くの方から敬愛される人物であり、私から周恩来総理についてお話させていただくことをお許しください。
戦後の厳しい国際情勢の中で、周恩来総理は、日本との正常な関係を樹立することの重要性を認識され、日本の情勢に強く関心を持たれ、各対外部門に対し、日本に関するあらゆる情報を報告させたと聞きます。中でも毎晩日本のラジオニュースを基に作成される日本情勢の報告書に、まず最初に目を通すのは決まって周恩来総理だったようです。
1972年、日本で田中角栄政権が誕生し、日中国交正常化への意欲が表明されたことを受け、周恩来総理は、すぐさま外交部に対し、中国側としてこれにいかに応えるかをすぐに検討するよう指示を出しました。同時に、周恩来総理は、自らの生活習慣を調整したとも聞いています。当時の周恩来総理の生活スタイルは、夜遅くまで仕事をした後、早朝5時頃に就寝、午前11時頃に起床という夜型の生活スタイルでしたが、田中首相は朝が早いということを知り、将来の田中首相の訪中を見据え、秘書に対し夜遅くに文書を持ち込まないよう指示され、生活スタイルを朝型に変更されたわけでした。
その後、田中首相が訪中し、国交正常化が実現することになりますが、当時、日中共同声明における文言調整は、国内でのプレッシャーを受ける周恩来総理にとって非常に難しい挑戦だったようでした。しかし、周恩来総理は、「日本にも立場があるから、相手を困らせてはならない。外交というのは、原則は守らなければならないが、相手に一歩譲ることも必要である。」と述べられ、日中双方は、何とか日中共同声明の署名に辿り着くことができたと聞いたことがあります。「自国の利益を守ることは当然のことであるが、他国の利益も考えなければならない。」という周恩来総理の崇高な外交理念が、当時日中両国を「新たな時代」へと導いたのです。
昨今、日中関係は必ずしも順調ではありませんが、現在我々に求められているのは、こうした周恩来総理の相手のことを思いやる精神を改めて学び合い、立場が異なる相手であっても誠実に意思疎通を重ねることではないでしょうか。
御来席の皆様、
現在、日中関係をめぐって私が心配しているのは、日中両国の国民感情の問題、とりわけ日本国民の対中感情が悪化している問題であります。
周恩来総理はかつて日本との民間交流を極めて重視しました。国交正常化の前から、日本の農業代表団、松山バレエ団、演劇団、新聞記者代表団等、数多くの日本の民間人と積極的に交流されておられました。現在の日中関係においては、民間交流が大事である、日中関係の基礎は民間にあるとよく言われますが、そのことが真に理解され、政治的理由等から何らの影響も受けずに実施されているでしょうか。このことは、日中両国の関係者が明年の50周年をどう祝うかで試されると考えます。国民感情の悪化を相手国のメディアの報道のせいに帰するだけでは、国民感情は改善されず、何の問題の解決にもなりません。日中双方が一緒になってこの問題の重要性と深刻さを理解し、どのように改善していけばいいのかとの方策につきよく話し合い、そして努力していくことが強く求められています。
習近平主席は本年5月、第30回集団学習会において、「信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージ」を形成しなければならない旨述べられ、また、7月の中国共産党成立100周年祝賀大会においては、「全ての有益な提案と善意ある批判を歓迎する」とも発言されています。重要なことは双方が一緒になって考え、努力していくことではないでしょうか。
日中関係は、日本にとって最も重要な二国間関係の一つであることに変わりはなく、これは中国にとっても同じことであると思います。日中両国は、互いに「引っ越し」のできない隣国である以上、様々な摩擦やすれ違いがあることは正常なことであり、だからこそ、自国の国益に基づいて互いに主張すべきは主張しながらも、協力できるところは積極的に協力しなければなりません。日中両国は、今や地域と世界の平和と繁栄に対して、共に大きな責任を有しており、共に協力すれば地域や世界の様々な諸課題に共に貢献することができます。そのためにも私は、中国大使として着任して以来、外部環境に影響されず、長期にわたって安定的かつ建設的な日中関係を構築することこそが何よりも大切であると訴えてきています。
8月8日、東京オリンピックは成功裏に閉幕し、先日24日から東京パラリンピックが開催されています。東京パラリンピックが終われば、次はいよいよ、ここ北京での冬季オリンピック・パラリンピックを迎えることになります。私は駐中国日本大使として、東京での成功が北京での成功につながり、来年の北京冬季オリンピック・パラリンピックが成功裏に開催されることを希望しています。
また、来年2022年は、国交正常化50周年という重要な節目の年に当たります。これからの日中関係を構築していく上で、我々は、ハイレベルを含む緊密な意思疎通を通じて、政治的相互信頼を醸成するとともに、日中の青少年交流を含む民間交流をしっかりと推進し、良好な国民感情を醸成すべく、互いに努力していく必要があります。
そうした意味からも我々大使館と社会科学院、特に日本研究所との間で、公式見解にとらわれることなく、忌憚なき意見が交わされることを強く期待しています。
最後に、本日のフォーラムが成功裏に開催されますこと、そして、日本研究所の益々の御発展と御活躍を祈念して、私からの挨拶とさせていただきます。
御清聴ありがとうございました。