○北京市の大気汚染についてー微小粒子状物質“PM2.5”とはー
(2月7日北京日本人会・中国日本商会共催「生活安全セミナー」における当館経済部岡﨑雄太書記官講演資料)
- 北京の大気汚染の概況
○ 北京市内の大気汚染状況は、当局の発表によれば十数年間連続で改善とされていますが、依然として深刻な状況が継続し、最近、大気の滞留しやすい自然条件も加わり、特に深刻な汚染が多発しています。
○ 現在、特に問題となっているのは「粒子状物質」です。北京市の粒子状物質(PM10:直径10ミクロン以下)の年平均値は0.124 mg/m3(2012年上半期)で、中国の環境基準(年平均値0.10mg/m3、2016年施行の新基準は0.07 mg/m3)を超過し、東京都(一般排ガス測定局0.021mg/m3、自動車排ガス測定局0.023mg/m3(2011年)と比較すると5倍以上のレベルです。
○ 微小粒子状物質(PM2.5:直径2.5ミクロン以下、PM10の4~7割程度を占める)の新たな環境基準(2012年2月制定)は、2016年1月から全国施行予定ですが、北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタ等の重点地域、直轄市及び省都では2012年から前倒しで観測が実施されています。また、北京の米国大使館も独自に観測データを公表しています。
2.粒子状物質(PM10、PM2.5)の健康影響
○ 粒子状物質には、工場のばい煙、自動車の排気ガスなどの人為由来、黄砂、森林火災など自然由来のものがあります。また、粒子として排出される一次粒子とガス状物質が大気中で粒子化する二次生成粒子があります。
○ PM10(直径10ミクロン以下)、さらにはPM2.5(直径2.5ミクロン以下)と、粒子の直径が小さくなるほど、肺の奥、さらには血管へと侵入し易くなり、濃度上昇に従い、ぜんそく・気管支炎、肺や心臓の疾患による受診・入院数が増加、さらには肺がん・循環器系疾患による死亡リスクが増加します。
○ 高齢者や子供、肺・心臓に疾患のある方は、健康な成人と比べて大気汚染に対してより高いリスクを有します。
○ また、屋外で運動を行う際は、通常よりも速く深い呼吸を行うため、より多くの粒子が体内に吸収され、健康影響を及ぼすおそれがあります。
3.一般的な対応策
○ 中国政府は毎日「大気汚染指数」を公表し、大気汚染の程度に応じ、屋外での長時間の激しい運動や外出を避けるよう呼びかけています。大気汚染のリスクを減らすためには、①屋外での運動を汚染の多い日から汚染の少ない日へ変更する、②運動時間を減らす、③激しい運動から軽い運動へ変更する(例:ジョギングを散歩へ)、④汚染の激しい沿道での運動を避ける、⑤外出時にマスクを着用する、といった方法が考えられます。
○ また、屋外の汚染は屋内の空気の質にも影響するため、フィルター、空気清浄機の使用が汚染削減に有効であるとされています。
(参考)大気汚染指数・大気質指数について
大気汚染指数(中国)、大気質指数(米国) |
PM2.5濃度
(日平均)
※中国(2016年全国施行) |
PM2.5濃度
(日平均)
※米国 |
評価
※中国(→は2016年施行後の変更名称)
/米国) |
健康アドバイス
(米国環境保護庁による) |
0-50
(緑) |
0-0.035
mg/m3 |
0-0.015
mg/m3 |
優
/Good |
|
50-100
(黄) |
0.035-0.075
mg/m3 |
0.015-0.04
mg/m3 |
良
/Moderate |
・特に敏感な者は、長時間又は激しい屋外活動の減少を検討 |
101-150
(橙) |
0.075-0.115
mg/m3 |
0.04-0.065
mg/m3 |
軽微汚染
(→軽度汚染)/Unhealthy for Sensitive Groups |
・心臓・肺疾患患者、高齢者及び子供は、長時間又は激しい屋外活動を減少 |
151-200
(赤) |
0.115-0.15
mg/m3 |
0.065-0.15
mg/m3 |
軽度汚染
(→中度汚染)/Unhealthy
|
・上記の者は、長時間又は激しい屋外活動を中止
・すべての者は、長時間又は激しい屋外活動を減少 |
201-300
(紫) |
0.15-0.25
mg/m3 |
0.15-0.25
mg/m3 |
中度汚染
(→重度汚染)/Very Unhealthy
|
・上記の者は、すべての屋外活動を中止
・すべての者は、長時間又は激しい屋外活動を中止 |
301-500
(赤褐色) |
0.25-0.5
mg/m3 |
0.25-0.5
mg/m3 |
重汚染
(→厳重汚染)/Hazardous |
|
※中国では大気汚染指数(Air Pollution Index)、米国では大気質指数(Air Quality Index)を定め、一般市民に対し、毎日の大気汚染の状況と汚染の程度に応じて取るべき対応を分かりやすく情報提供しています。
※中国と米国では環境基準が異なるため、同一の汚染濃度でも指数の評価が一部で異なります。
<環境基準>
PM10 |
中国 |
年平均値 0.10mg/m3
(0.07mg/m3)(※) |
1日平均値0.15mg/m3 |
- |
日本 |
- |
1日平均値0.10mg/m3 |
1時間値0.20mg/m3 |
米国 |
- |
1日平均値0.15mg/m3 |
- |
WHO指針 |
年平均値 0.02mg/m3 |
1日平均値0.05mg/m3 |
- |
PM2.5 |
中国 |
年平均値0.035mg/m3(※) |
1日平均値0.075mg/m3(※) |
- |
日本・米国 |
年平均値 0.015mg/m3 |
1日平均値0.035mg/m3 |
- |
WHO指針 |
年平均値 0.01mg/m3 |
1日平均値0.025mg/m3 |
|
※ 2012年2月に新たな環境基準が発表され、PM10の年平均値を0.10mg/m3から0.07mg/ m3 へ改正するとともに、PM2.5の環境基準を新たに設定し、2016年1月から全国で施行することとし、北京・天津・河北、長江デルタ、珠江デルタ等の重点地域、直轄市及び省都では2012年から前倒しで観測が実施されています。
(参考1)北京市のPM10・PM2.5観測データ
・北京市環境モニタリングセンター:
PM10の1時間値、過去24時間平均の汚染指数(北京市内27カ所の観測地点毎及び平均値)、及び当日夜間及び翌日昼間の汚染指数予報(市内の5区域毎)を公表。2012年10月時点で、市内35か所のPM2.5試行観測データの1時間値を公表。
http://www.bjmemc.com.cn/g356.aspx
・中国環境保護部環境モニタリングステーション「重点都市大気質量公表システム」:
PM10の1時間値(北京市内12か所の国設観測地点を含む全国)を公表
http://58.68.130.147/air/
・中国環境保護部データセンター「大気データ日報分析」:
過去1か月間の汚染指数(全国の省市毎の平均)を公表
http://datacenter.mep.gov.cn/report/air_daily/airCityMain.jsp?city=北京
(参考2)在中国米国大使館のPM2.5観測データ
・在中国米国大使館ウエブサイト:
PM2.5の1時間値(米国大使館敷地内)(pg/m3=ng/m3の千倍)・汚染指数を公表
http://beijing.usembassy-china.org.cn/070109air.html
・上記データを転載する民間の情報提供サイト:(※日本語ページあり)
http://www.lantiantian.com/index.php/ja
・同スマートフォン版:(※日本語ページあり)
http://mobile.lantiantian.com/index.php/ja
・上記データをiphone利用者向けに転載する民間の情報提供サイト:
http://iphone.bjair.info/
※中国政府及び米国大使館・総領事館によるPM10・PM2.5観測データを提供するウエブサイトやスマートフォン用のアプリケーションは他にも多数あり。
(参考3)中国各地のPM10濃度(2012年上半期)
北京 |
0.124 mg/m3 |
上海 |
0.075 mg/m3 |
青島 |
0.074 mg/m3 |
天津 |
0.105 mg/m3 |
南京 |
0.103 mg/m3 |
長沙 |
0.091 mg/m3 |
石家荘 |
0.105 mg/m3 |
蘇州 |
0.080 mg/m3 |
広州 |
0.073 mg/m3 |
瀋陽 |
0.089 mg/m3 |
寧波 |
0.079 mg/m3 |
深セン |
0.047 mg/m3 |
ハルビン |
0.084 mg/m3 |
福州 |
0.063 mg/m3 |
南寧 |
0.064 mg/m3 |
西安 |
0.113 mg/m3 |
蘭州 |
0.143 mg/m3 |
ウルムチ |
0.173 mg/m3 |
武漢 |
0.098 mg/m3 |
重慶 |
0.096 mg/m3 |
成都 |
0.121 mg/m3 |
|