中国民法典について(日本民法との比較を中心に)

令和3年1月5日
森・濱田松本法律事務所
(令和2年度受託法律事務所)

 2020年5月28日、第13期全国人民代表大会第3回会議において、「中華人民共和国民法典」(以下「中国民法典」という。)が制定され、公布された。中国民法典は、2021年1月1日から施行される。中国民法典は、総則、物権、契約、人格権、婚姻家庭、相続、権利侵害責任の7つの編及び附則の合計1260条によって構成されている。
 これまで中国には統一の民法典が無く、民法分野の法律は、民法通則(1986年制定)、物権法(2007年制定)、担保法(1995年制定)、契約法(1999年制定)、権利侵害責任法(2009年制定)、婚姻法(1980年制定)、養子縁組法(1991年制定)、相続法(1985年制定)という個別の法律(以下「旧法」と総称する。)に分かれていた。全国人民代表大会常務委員会は2015年に民法典の編纂を立法計画に組み入れて制定作業を開始し、2017年に第一段階として民法総則を制定し、2019年12月28日に「民法典(草案)」の公表を経て、今回の中国民法典の制定公布に至った。中国民法典の正式施行により、旧法はいずれも廃止される(1260条)。
 中国民法典は、旧法下における原理原則を変えるような大きな変更は行っていないものの、人格権編を民法典の中に組み入れる等、重要な変更も行っている。もっとも、旧法と中国民法典の内容比較については、日本語による論稿も多くあるところであるため、今回の記事においては日本の民法と中国民法典の相違に着目し、中国での実務上留意すべき点について検討していきたい。
 

1.契約の成立-mirror image rule

 中国民法典においても、日本民法においても、契約の申込みに対して、承諾が行われたときに契約が成立し、この承諾は申込みの内容を前提としなければならないこと[i]が原則である。しかし、中国民法典と、日本民法では、以下のとおり申込みに対して変更を加えた承諾の扱いについて、異なる規定が存在する。
  中国民法典 日本民法
申込みに対する変更 申込受領者が申込の内容に対して実質的な変更を行った場合には、新たな申込とする(488条)。
承諾において申込の内容に対して実質的でない変更が行われた場合には、(1)申込者が反対する旨を遅滞なく表示したとき、又は(2)申込時に、承諾において申込の内容に対していかなる変更も行ってはならない旨を表明していたときを除き、当該承諾に基づき契約が成立する(489条)。
承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす(528条)。

 上記のとおり、中国民法典においては、承諾が申込みの内容と多少違っていても、「実質的な変更」がない限りは、申込者の異議等がなければ契約が成立する(489条)。ここでいう「実質的な変更」にあたる例として、契約の目的物、数量、品質、代金又は報酬、履行期限、履行の場所及び方式、違約責任並びに紛争解決方法等に関する変更が挙げられている(488条第3文)。「実質的な変更」に該当しない例について、法令には明確に列挙されていないが、裁判実務において、上記の「実質的な変更」として挙げられているもの以外の内容は、「実質的な変更」に該当しないと判断される可能性が高いと考えられる。
 そのため、中国においては、契約の申込みに対して、実質的でない変更が加えられた承諾がなされた場合には、当該承諾に対して遅滞なく異議を出さない限りは、その変更を前提とした契約が成立する場合があることに留意が必要である。

 

2.訴訟時効・消滅時効

 中国民法典と日本民法では、権利行使ができなくなる期間(時効)についての概念が異なる。中国民法典においては、「訴訟時効」が定められており、これは時効期間が過ぎると、訴訟や仲裁によって権利を請求する場合に、債務者に訴訟時効期間の満了により債務を履行しない抗弁権が発生することを意味し、権利自体が消滅することまでは意味しない。一方、日本民法における「消滅時効」は、実体法上の権利が消滅することを意味する(日本民法166条等)。
 訴訟時効・消滅時効の期間及び中断・完成猶予に関する規定は下表のとおりである。
  中国民法典 日本民法
訴訟・消滅時効 【訴訟時効】
時効期間は、権利者がその権利が侵害されたこと及び義務者を知った日又は知ることができた日から3年(188条1項前段)
債権者による履行の請求、債務者による義務履行の同意、債権者による訴訟提起によって時効は中断する(195条)。
【消滅時効】
時効期間は、(1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年、(2)権利を行使することができる時から10年(166条1項)
裁判上の請求、支払督促等によって時効の完成は猶予される(147条1項)

 まず、中国民法典における訴訟時効は3年とされており、日本民法の消滅時効における5年又は10年よりも短期で時効が完成するため、時効期間を誤解して気づかぬうちに訴訟時効が完成するという事態が生じないように留意する必要がある。
 また、中国民法典においては、履行を請求することで時効が中断する。この時効の中断により、新たな時効期間が始まることを意味する。一方で、日本民法においては、時効の完成を阻止するためには裁判上の請求等を行わなければいけないため、その手続き的なハードルが高い。
 そのため、中国における債権管理という点では、日本よりも短期の訴訟時効に注意を払う必要があるが、その時効の完成を阻止するためには履行の請求で足りるため、適切なタイミングで履行の請求を行うことが重要といえる。
 

3.不動産の物権変動

 中国民法典において、不動産の物権変動は登記によって効力を生じるとされている一方で、日本民法においては当事者間の意思表示で物権変動が生じ、登記は対抗要件にすぎない。
  中国民法典 日本民法
不動産の物権変動 不動産物権の設定、変更、譲渡及び消滅は、法に基づき登記をすることにより、効力を生ずるものとし、登記を経ていない場合には、効力を生じない(209条1項)。 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる(176条)。
不動産に関する物権の得喪及び変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)。

 中国においても日本においても、不動産取引において登記が重要であることは変わりがないが、中国においては登記が完了しなければそもそも物権変動の効力が生じないことについては留意が必要である。一方、中国においては登記が物権変動の効力発生要件となることから、日本における不動産の二重譲渡の問題は生じないといえる。
 

4.不動産の所有権

 中国民法典上、下表のとおり、土地の所有権を、私人が取得する余地はほとんどないが、建物については、私人が所有権を取得することが可能である。他方、日本民法上明文はないが、憲法29条において保障される私有財産権の下、土地も建物も、私人が所有権を取得できる。
  中国民法典 日本民法
不動産の所有権 都市の土地は、国の所有に属する。法律が国の所有に属すると定める農村及び都市近郊の土地は、国の所有に属する。(249条)
私人は、その合法的な収入、建物、生活用品、生産用具、原材料等の不動産及び動産に対して所有権を有する(266条)。
明文なし

 中国においては土地の所有権は国に帰属するため、私人は(所有権ではなく)土地使用権に基づいて土地を使用することになる。土地使用権は一定期限に限られることになるため、期限到来時において土地使用権の更新や更新に伴う土地使用権の対価の支払いが必要となる場合があることに留意が必要である。例えば、中国の企業を買収する場合、又は中国の企業に対して投資をする場合には、将来的に発生し得る土地使用権に対する対価支払いについても加味した上で事業価値を算定する必要がある場合がある。
 

5.抵当権

 中国民法典上、下表のとおり、抵当権は、不動産だけでなく、生産設備等の動産にも設定することができる(395条1項4号、7号、396条)。他方、日本の民法上、抵当権は、不動産にしか設定することができない。動産に対する担保権としては、民法上質権(343条)が規定されているが、占有が要件となっていることから、例えば生産設備など債権者が占有することが難しい動産の場合、譲渡担保を用いることが多い。もっとも、譲渡担保は担保目的で動産を売買するもので、法律に定めのない担保であり、その趣旨に鑑み判例により一部担保と同様の考え方による処理がされているにすぎず、抵当権と比べて安定性に乏しい。
  中国民法典 日本民法
抵当権 債務者又は第三者が処分権を有する(1)建築物及びその他の土地定着物、(2)生産設備、原材料、半製品、製品、(3)法律、行政法規により抵当権の設定が禁止されていないその他の財産等には、抵当権を設定することができる(395条1号、4号、7号)。
企業、個人商工業者及び農業生産経営者は、現有の及び将来有する生産設備、原材料、半製品及び製品に抵当権を設定することができ、債務者が期限到来債務を履行しない場合、又は当事者が約定した抵当権実行の状況が発生した場合には、債権者は、抵当財産の確定時の動産について優先弁済を受ける権利を有する(396条)。
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する(369条1項)。

 中国では不動産と同様の安定性をもって生産設備等の動産に担保権を設定することができるため、例えば銀行借入の場面などにおける動産の重要性が日本よりも高くなることが考えられる。
 

6.表見代理

 中国民法典上、行為者が代理権を有しない場合、与えられた代理権を超えて行為を行った場合及び代理権が終了した後に行為を行った場合について表見代理(本人と表示された者に法律効果が帰属する)が定められている。この点は日本の民法上も概ね同様である。ただし、中国民法典上は、行為者が代理権を有しない場合の表見代理について、本人とされた者の帰責性が要求されておらず、裁判例上も本人の帰責性を要求すべきかの判断は分かれており、「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した」ことが要件とされている日本とは異なっている。
  中国民法典 日本民法
表見代理 行為者が代理権を有さずに、代理権を超えて、又は代理権が終了した後に、依然として代理行為を行った場合において、相手方が、行為者が代理権を有すると信じるにつき理由があるときは、代理行為は有効とする(172条)。 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない(109条1項)。
109条1項本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する(110条)。
他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない(102条1項)。

 中国においては日本よりも広く第三者が勝手に代理人として行為をした場合の表見代理が認められてしまう可能性があるため、常日頃から印鑑等の管理を厳重にし、万が一何者かが代理人を名乗って行為をしたとしても、相手方が代理権があると信じたことは合理的とは言えないこととの反論ができるようにしておくことが重要である。例えば、中国における合弁企業において、日本からの駐在員が法定代表者であるものの、その不在時に法定代表者の印鑑を無断で使用される事例も発生しており、その場合には表見代理として有効な法律責任が発生する場合もあるため、留意が必要である。
 

7.履行不能と債務者の過失

 中国民法典上、下表のとおり、債務を履行しなかったことによる責任(違約責任)が発生するためには、債務者の帰責事由は必要ではなく、不可抗力により契約目的の実現や契約の履行が不可能になった場合等に、解除や違約責任の免責が認められるにとどまる。他方、日本民法上は、下表のとおり、履行不能により債務不履行責任が生じるには債務者の過失・帰責事由が必要と解されているため、不可抗力の場合はもとより、債務者の過失・帰責事由がない場合は広く、債務不履行責任は生じない。
  中国民法典 日本民法
不可抗力 当事者の一方は、契約上の義務を履行せず、又は契約上の義務の履行が約定に合致しない場合には、履行を継続し、救済措置を講じ、又は損失を賠償する等の違約責任を負わなければならない(577条)。
不可抗力により契約目的を実現することができなくなったときは、当事者は、契約を解除することができる(563条)。
当事者の一方は、不可抗力により契約の履行が不能となった場合には、不可抗力の影響に基づき、責任の一部又は全部を免れる(590条)。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。(415条1項)
債務の全部又は一部の履行が不能であるときは、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の全部又は一部の解除をすることができる(542条1項1号、2項1号)。ただし、債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、この契約の解除をすることができない(543条)。

 両者の違いは、ある債務の履行が不能になったが、そのことは債務者のせいとはいえないものの、不可抗力とまではいえない場合に現れる。中国民法上は債務者は違約責任を免れない一方、日本民法上は債務不履行責任は生じない。
 

8.損害軽減義務

 中国民法典上、下表のとおり、当事者の一方が違約した後、相手方は、適当な措置を講じて損失の拡大を防止しなければならないとされており、損害軽減義務が規定されている。適当な措置を講じなかったことにより損失が拡大した場合には、拡大した損失につき賠償を請求することができない(591条)。また、中国民法典上、債務不履行の場合の過失相殺も規定されている(592条)。他方、日本民法上は、従来は損害軽減義務の明文がなかったが、例えば賃貸人の修繕義務の不履行により賃借人が被った営業利益相当額の損害について、賃借人が別の場所で営業を再開する等の損害を回避又は減少させる措置を取らなかった場合にはこれにより生じた損害の賠償は認められないとした最高裁判例(最判平成21年1月19日)などはあり、実務上損害軽減義務の考え方は取り入れられていた。今般の日本民法改正により、「損害の発生若しくは拡大」についての過失相殺が規定されるなど、法律上も損害軽減義務の考え方が取り入れられることになった。
  中国民法典 日本民法
損害軽減義務 当事者の一方が違約した後、相手方は、適当な措置を講じて損失の拡大を防止しなければならない。適当な措置を講じなかったことにより損失が拡大した場合には、拡大した損失につき賠償を請求することができない(591条)。
当事者がいずれも契約に違反した場合には、各自相応の責任を負担しなければならない。
 当事者の一方が違約して相手方に損失をもたらした場合において、相手方に損失の発生について過失があるときは、相応の損失賠償額を減額することができる(592条)。
債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める(418条)。

 中国においては、明示的に損害軽減義務が規定されているため、契約違反によって損害を受ける側であっても、適切に損害を軽減するための措置をとらなければ、契約違反を行った相手方に対して損害の全部について回復を求めることができない可能性がある点に留意が必要である。
 

9.不安の抗弁

 中国民法典上、先に債務を履行すべき当事者は、相手方が後に履行されるべき反対債務を履行しない可能性が高い状況にあることを証明すれば、相手方に通知して、履行を停止することができる。他方、日本の民法上は、こうした条文はなく、継続的契約において契約の約旨に従って更に商品を供給したのではその代金の回収を実現できないことを懸念するに足りる合理的な理由がある場合には先履行である商品の供給債務の履行を拒絶できる(いわゆる不安の抗弁)とした下級審判例(東京地判平成2年12月20日)があるにすぎない。
  中国民法典 日本民法
不安の抗弁
 
先に債務を履行すべき当事者は、相手方が(1)経営状況が著しく悪化したとき、(2)債務を免れるために、財産を移転し、資金を不正に引き出したとき、(3)商業上の信用を喪失したとき、(4)債務履行能力を喪失し、又は喪失するおそれがあるその他の状況があるときのいずれかに該当することを証明する確実な証拠がある場合には、履行を停止することができる(527条)。
当事者は、527条の規定に基づき履行を停止する場合には、遅滞なく相手方に通知しなければならない(528条)。
該当なし

 中国においてはより先履行債務者の保護が厚いと言える。他方で、後履行の債務者としても「確実な証拠」が無ければ履行拒絶は認められないため、そこまで経営状況等に過敏となる必要はない。
 

10.事情変更の法理

 中国民法典上、事情変更の法理が明記されている。すなわち、契約の成立後、契約の基礎条件に、当事者が予見することができなかった重大な変更が発生し、それが当事者の一方にとって不公平である場合、究極的には契約の変更又は解除を請求することができる。
 このルールは、実は、英米法上のfrustrationの法理(契約目的達成不能の法理)にも通ずるルールである。例えば、英米法系に属する香港においては、いずれの契約当事者の責めにも帰することのできない事象が発生し、当該事象が契約上もともと意図されていた契約当事者の権利及び義務を著しく変更したときは、同法理により、裁判所により契約は解除される。いわゆる新型コロナウイルスの蔓延により契約上の義務履行が不可能となったとみられる場合に、このfrustrationの法理を適用して契約を解除したり変更したりすることはできるか、といったことが盛んに議論されていた。中国民法典上も、同様の救済を受ける余地があるということになる。
 他方、日本の民法上は、こうした条文はない。もっとも、金銭債務以外は、債務不履行責任を生じるには債務者の帰責事由が必要とされているため(415条1項。金銭債務は不可抗力をもって抗弁とすることができない(419条3項))、中国民法典533条1項が想定するような状況の下では、債務者の帰責事由がないとして、債務不履行責任は生じないものとして扱うことも多いかと思われる。また、契約上、事情変更があった場合の交渉義務などを定めていることも多い。
  中国民法典 日本民法
事情変更の法理 契約が成立した後、契約の基礎条件に、当事者が契約締結時に予見することができない、商業リスクに属しない重大な変更が発生し、契約の履行を継続すると当事者の一方にとって明らかに不公平である場合には、不利な影響を受ける当事者は、相手方と改めて協議することができる。合理的な期間内に協議が調わないときは、当事者は、人民法院又は仲裁機関に契約の変更又は解除を請求することができる(533条1項)。 該当なし

 中国では事情変更の法理が法律上規定されることになる。もっとも、これまでも事情変更による契約の解除、再交渉などは契約上多く規定されていた。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によりその解釈が問題となり、多くの人民法院又は仲裁機関の判断が出されているが、これらを見ると、事情変更が認められるのは相当限定的な場合に限られているようであり、民法典の施行によってもこの流れは変わらない可能性が高いと思われる。
 

11.物品売買における不具合の通知期間

 買主が売主からある物品を買ったが、1年後、その物品に不具合が見つかった。買主は売主に対し損害賠償を請求できるか。中国民法典上は、下表のとおり、物品に不具合があったとしても、2年(又は合意された品質保証期間)以内であれば、違約責任を請求できる可能性がある。他方、日本商法は極めて厳しく、下表のとおり、商人間(会社間)の売買においては、物品の検査後直ちに、どんなに遅くとも6か月以内に通知しなければ、製品の検査をしても通常は見つけることができないような不具合も含めて、一律に債務不履行責任を請求できなくなる。
  中国民法典 日本商法
物品売買における瑕疵の通知期間 当事者が検査期間を約定した場合はその検査期間内に、当事者間に検査期間につき約定がない場合には、目的物の数量又は品質が約定に合致しないことを発見し、又は発見すべき合理的な期間内に、目的物の数量又は品質が約定に合致しない状況を売主に通知しなければならない(621条1項、2項)。買主が通知を怠ったときや、目的物を受領した日から2年(品質保証期間が合意されているときはその期間)以内に通知しなかった場合には、目的物の数量及び品質が約定に合致しているものとみなされる(621条1項、2項)。 商人間の売買において、買主は、検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。(526条2項)

 両者を比較すると、物品の売買において不具合が見つかった場合、日本法の方がより債務者の免責を広く認めやすいことになる。もっとも、日中間の国際的物品売買の場合には、上記の中国民法典・日本商法典に優先して、ウィーン売買条約が適用されることに留意されたい。
 

12.懲罰的賠償

中国民法典上、下表のとおり、悪質な場合に限ってであるが、懲罰的賠償が認められる余地がある。他方、日本民法典上は、懲罰的損害賠償を認める規定はない。
  中国民法典 日本民法
懲罰的賠償 故意に他人の知的財産権を侵害し、情状が重い場合には、被権利侵害者は、相応の懲罰的賠償を請求する権利を有する(1185条)。
製品に欠陥が存在することを明らかに知りながらもなお製造し、販売し、又は前条の規定に基づき有効な救済措置を講じておらず、他人の死亡又は健康の重大な損害がもたらされた場合には、被権利侵害者は、相応の懲罰的賠償を請求する権利を有する(1207条)。
権利侵害者が国の規定に違反して故意に環境を汚染し、生態を破壊して重大な結果をもたらした場合は、被権利侵害者は、相応の懲罰的賠償を請求する権利を有する(1232条)。
なし

 懲罰的賠償の制度は、特にアメリカにおける法制度においてみられ、実務上も大きな役割を果たしているが、日本においては、日本の損害賠償制度は実損を填補するものであるから、懲罰的損害賠償は、日本の手続的公序に反し認められないとするのが、最高裁判例である(最判平成9年7月11日民集51巻6号2573頁)。
 

13.製造物責任

 中国民法典は、一般的な不法行為の成立要件を定めるだけでなく(1165条)、特殊な不法行為の類型を想定して各種の特則を設けている。その中に、製造物責任の規定もある(1202条以下)。中国民法典において、製造物責任は、下表のとおり、基本的に無過失責任である。他方、日本法上も製造物責任は法定されているが、下表のとおり、開発危険の抗弁等一定の場合に免責される可能性のある厳格責任である。
  中国民法典 日本法
製造物責任 製品に欠陥が存在することにより他人に損害がもたらされた場合には、被権利侵害者は、製品の製造者に賠償を請求することができ、また、製品の販売者に賠償を請求することもできる(1203条1項)。 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる(製造物責任法3条本文)。
前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない(同法4条)。
一 当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
二 当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。

 製造物責任の免責の余地において、中国は日本よりも狭いように見える。もっとも、日本においても、製造物責任の免責が認められる事例はかなり限られるから、中国においても日本においても、製造物責任を免れるのが困難であることに変わりはない。
 

14.人格権

 中国民法典は、わざわざ「人格権」と題する編を独立しておいて、下表第1列に掲げた事項のそれぞれについてかなり詳細な規定を置いている。人体細胞の提供や臨床試験、遺伝子研究等(1006~1009条)、セクハラ(1010条)といった今日的な課題にも条文として答えている。他方、日本民法典は、これらについて特別な条文は置いておらず、一般不法行為法のほか、判例法や個人情報保護法などの特別な法律によって、断片的に規律されているのみである。
  中国民法典 日本民法
生命権、身体権及び健康権 第1002条~第1011条
(人体細胞の提供[ii]
(臨床試験[iii]
(遺伝子研究等[iv]
(性的嫌がらせ[v]
明文なし
氏名権及び名称権 第1012条~第1017条 明文なし
肖像権 第1018条~第1023条 明文なし
名誉権及び栄誉権 第1024条~第1031条 明文なし
プライバシー権及び個人情報の保護 第1032条~第1039条 明文なし
 

15.婚姻・離婚・相続

 下表は、婚姻と離婚、相続について、中国民法典と日本民法を比べたものである。婚姻年齢が多少中国の方が高いことや、中国民法典には家庭内暴力や家庭内の虐待等を禁止する明文の規定があること、協議離婚の「クーリングオフ」制度が中国民法典には見られること、日本民法は、父母は被相続人に子がなかった場合に限り相続人となるにすぎないのに対し、中国民法典上は、父母は子と同順位の相続人とされていること等がわかる。
  中国民法典 日本民法
婚姻年齢 男性は満22歳以上、女性は満20歳以上(1047条) 男性は18歳以上、女性は16歳以上(731条)*2022年4月1日以降は、男女とも18歳以上(同条)
家庭内暴力・家庭内の虐待等 家庭内暴力を禁止する。家族間の虐待及び遺棄を禁止する(1042条3項)。 明文なし
協議離婚 可能(1076条)
婚姻登記機関が離婚登記申請を受領した日から30日以内においては、いずれの一方も、離婚することを望まない場合には、婚姻登記機関に対して離婚登記申請の撤回をすることができる(1077条1項)。
可能(763条)
裁判離婚事由 次に掲げる状況のいずれかに該当し、調解が功を奏しない場合には、離婚することを認めなければならない(1079条3項)。
⑴重婚又は他人との同居
⑵家庭内暴力の実施又は家族の虐待、遺棄
⑶賭博、薬物乱用等の悪癖があり、再三注意しても改めないとき
⑷感情面の不和により別居して満2年が経過したとき
⑸その他夫婦感情の破綻を招く状況
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる(770条1項)。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
法定相続分 遺産は、次に掲げる順位に従って相続する(1127条1項)。
  • 第一順位:配偶者、子、父母
  • 第二順位:兄弟姉妹、祖父母、外祖父母
同一順位の相続人の相続分は、通常、均等でなければならない(1130条1項)。
被相続人の子は、相続人となる(887条1項)。
相続人となるべき子などがない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる(889条)。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。(890条)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる(900条1項)。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
 

本資料の利用についての注意・免責事項

 本資料は、森・濱田松本法律事務所が2020年11月末日までに入手した中国の法令等の公開情報に基づき作成しており、その後の法令改正等を反映していません。また、本資料に掲載する情報について、一般的な情報・解釈がこれと同じであることを保証するものではありません。本資料は参考情報の提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。
 日本政府、外務省、在中国日本国大使館、領事館及び森・濱田松本法律事務所は、本資料の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付随的又は懲罰的損害等について、一切の責任を負いません。

以上

 
[i] いわゆるMirror Image Ruleと呼ばれる契約原則である。
[ii] 完全民事行為能力者は、その人体細胞、人体組織、人体器官、遺体を無償提供することを法に基づき自主決定する権利を有する(1006条1項前段)。
[iii] 新薬、医療機器の開発又は新しい予防及び治療方法の発展のために、臨床試験を行う必要がある場合には、法に基づき関連主管部門の認可を受け、かつ倫理委員会の審査を受けて承認を得なければならず、被験者又は被験者の後見人に試験の目的、用途及び生じるおそれのある危険等の詳細な状況を告知し、かつその書面による同意を得なければならない。臨床試験を行う場合には、被験者から試験費用を徴収してはならない。(1008条)
[iv] 人体の遺伝子、人体の胚等と関わりのある医学及び科学研究活動に従事する場合には、法律、行政法規及び国の関連規定を遵守しなければならず、人体の健康を害してはならず、倫理道徳に反してはならず、公共の利益を損なってはならない。(1009条)
[v] 他人の意思に反して、言葉、文字、画像、身体的行為等の方式により他人に対して性的嫌がらせを行った場合は、被害者は、法に基づき行為者に民事責任の負担を請求する権利を有する。機関、企業、学校等の単位は、合理的な予防、苦情申立の受理、調査及び処置等の措置を講じて、権限、従属関係等を利用した性的嫌がらせの実施を防止し、制止しなければならない。(1010条)