中国における身柄拘束手続について
平成31年1月23日
森・濱田松本法律事務所
(平成30年度受託法律事務所)
(平成30年度受託法律事務所)
本資料は、中国[1]における身柄拘束手続の概要をQ&A方式により、説明するものです。
Q1 中国における身柄拘束
中国において、身柄拘束にはどのようなものがありますか。
A1 刑事処罰としての身柄拘束である拘役と懲役、行政処罰としての身柄拘束である行政拘留があります。これに加え、刑事判決又は行政処罰決定が下される前の段階において、取り調べ等のために、被疑者又は被告人の身柄を拘束する措置がとられることがあります。
Q2 刑事手続の流れ、スケジュール
中国における刑事身柄拘束手続及び刑事裁判手続の流れ、スケジュールについて、ご説明ください。
A2
中国における刑事身柄拘束手続及び刑事裁判手続の流れ、スケジュール(処罰決定前に拘留及び逮捕が実施された場合)は、一般的には上記のとおりです。ただし、事件によっては、これと異なる進行となる場合があります。また、期間については、例外が定められている場合があります。
例えば、詐欺、窃盗等の財産侵害、贈収賄、一定金額以上の脱税・密輸、交通事故、酒気帯び運転その他の刑事犯罪行為を行った場合に、身柄を拘束され、刑事処罰としての拘役又は懲役に処される可能性があります。
Q3 行政処罰手続の流れ、スケジュール
中国における行政処罰の手続の流れ、スケジュールについて、ご説明ください。
A3
中国における行政処罰の手続の流れ、スケジュールは一般的には上記のとおりです(なお、上記の図は行政処罰決定前に召喚及び尋問調査が実施された場合を前提としています。)。ただし、事件によっては、これと異なる進行となる場合があります。
例えば、売春・買春行為、賭博、わいせつ物頒布その他の行政法規違反行為を行った場合に、身柄を拘束され、行政処罰としての拘留に処される可能性があります(当該行為が、刑事犯罪行為に該当する場合には、刑事処罰が科されることもあります。)。
これに加えて、国外追放等の処分を付加されることがあります。
Q4 行政処罰としての行政拘留
行政処罰としての行政拘留とはどのような措置ですか。
A4 行政拘留は行政処罰の一種であり、治安管理処罰法その他の法令の違反に対する処罰です。治安管理処罰法に基づく行政拘留の期間は15日以内(単一の違反行為の場合)、または20日以内((複数の違反行為がある場合)とされています(治安管理処罰法16条)。
Q5 処罰決定前の身柄拘束
刑事判決又は行政処罰決定が下される前の段階において、被疑者又は被告人の身柄を拘束する措置にはどのようなものがありますか。
A5 刑事判決又は行政処罰決定が下される前の段階において、被疑者又は被告人に対して行われる身柄拘束の措置の概要は以下のとおりです。
名称 | 内容 | 中国語名称 | 刑事手続 | 行政処罰手続 | 期間 | (一定の場合の)延長 | 根拠法令 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
勾引 | 公安機関等が、被疑者又は被告人を尋問するために24時間を超えない範囲で身柄を拘束する措置 | 拘传 | 〇 | 12時間以内 | 最長24時間まで延長可 | 刑事訴訟法66、119条 | |
拘留 | 公安機関が、罪証隠滅のおそれ等がある者に対して、逮捕に先立って行う身柄拘束措置 | 拘留 | 〇 | 10日以内(拘留から、逮捕決定まで) | 最長37日まで延長可(左に同じ) | 刑事訴訟法82、85、86、91条 | |
逮捕 | 公安機関が、一定の場合に、人民検査員の承認又は人民訪印の決定を経て行う身柄拘束措置 | 逮捕 | 〇 | 2か月以内 | 最長7か月まで延長可 | 刑事訴訟法80、81、87、156乃至159条 | |
質問 | 公安機関は、被疑者に対して質問を行うことができ、一定の場合には、公安機関まで連行して引き続き質問できる | 盘问 | 〇 | 〇 | 公安機関の連行時から24時間以内 | 最長48時間まで延長可 | 警察法9条 |
外国人に対する拘留審査 | 外国人に対する現場質問を経た後、一定の場合は、身柄を拘束して審査できる | 拘留审查 | 〇 | 〇 | 30日以内 | 最長60日まで延長可 | 出入国管理法60条 |
召喚・尋問調査 | 公安機関は、治安管理違反行為者を一定の場合に召喚できる。召喚後速やかに尋問調査を行う | 传唤・询问查证 | 〇 | 尋問調査8時間以内 | 最長24時間まで延長可 | 治安管理処罰法82、83条 |
Q6 中国法の「拘留」「逮捕」
日本刑事訴訟法の「逮捕」「勾留」と中国刑事訴訟法の「拘留」「逮捕」の違いを教えてください。
A6 日本では、逮捕(最長72時間)が、勾留(原則10日、但し20日まで延長可)に先行します。他方、中国では、逆に拘留、逮捕という流れになります。拘留に基づく身柄拘束は最長37日間、続く逮捕に基づく身柄拘束は起訴のための審査までに最長7か月まで延長することが可能です。なお、状況によっては、拘留、逮捕に先だって、勾引(A5ご参照)等が行われることもあり得ます。
Q7 刑事手続における保釈、保釈金
刑事手続において、保釈の制度は存在しますか。保釈決定を行う場合、保釈金の納付は必要ですか。
A7 保釈(原文「取保候审」)の制度は存在します。被疑者又は被告人を保釈しても社会的危険性が生じないときなど、一定の場合には、保釈が認められる場合があります。ただし、保釈が認められた被疑者又は被告人は一定の義務を負います。
人民法院、人民検察院及び公安機関は、被疑者又は被告人に対して保釈決定をする場合、保証人の提供又は保証金の納付を命じなければならないこととされています。
Q8 弁護人への委託
被疑者及び被告人は、弁護士等に自己の弁護人となることを委託することはできますか。
A8 被疑者は、捜査機関が第1回取り調べ又は強制措置を行った日から弁護人に委託する権利を有します。捜査期間中は弁護士に対してのみ弁護人となることを委託することができます。被告人は、随時、弁護人に委託する権利を有します(刑事訴訟法34条1項)。
Q9 弁護人の接見交通権
弁護人は、被疑者又は被告人と接見及び連絡することができますか。
A9 弁護士である弁護人は被疑者又は被告人と接見及び連絡することができます。被疑者等の所属単位の推薦する者、親族・友人等の弁護人は、人民法院又は人民検察院の許可を得て被疑者等と接見及び連絡することができます(刑事訴訟法39条1項)。
Q10 領事官との連絡
日本人が、中国において公安機関等に身柄を拘束された場合、日本大使館又は領事館に所属する領事官(以下「領事官」といいます。)と連絡を取ることはできますか。
A10 刑事処罰又は行政処罰決定前の身柄拘束及び、処罰決定がなされ懲役、拘留等がなされた場合、領事官に連絡(文通)することができます(日・中領事協定8条1項(a)(d))。
Q11 領事官の面談
領事官は、中国において公安機関等に身柄を拘束された日本人と面談及び文通することはできますか。
A11 日本人に対して刑事処罰又は行政処罰決定前の身柄拘束及び、処罰決定がなされ懲役、拘留等がなされた場合、領事官は、当該日本人と面談及び文通することができます(日・中領事協定8条1項(c))。
本資料の利用についての注意・免責事項
本資料は、森・濱田松本法律事務所が2019年1月末日で効力を有する中国の法令等の公開情報に基づき作成しており、その後の法令改正等を反映していません。また、本資料に掲載する情報について、一般的な情報・解釈がこれと同じであることを保証するものではありません。本資料は参考情報の提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。中国において、身柄を拘束される等した場合には、具体的な事件の状況にもよりますが、別途、弁護士等の専門家に個別具体的な法的助言をお求めください。
日本政府、外務省、在中国日本国大使館、領事館及び森・濱田松本法律事務所は、本資料の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付随的又は懲罰的損害等について、一切の責任を負いません。
以上
[1] 本資料において、中国とは中国大陸を含み、香港特別行政区、マカオ特別行政区及び台湾地区を含みません。