中国会社法の改正について

令和6年8月19日
森・濱田松本法律事務所
(令和5 年度受託法律事務所)
 
2023年12月29日、「中華人民共和国会社法」の改正法(以下「改正会社法」という。)が公布されました。改正会社法は2024年7月1日より施行されています。
会社法は1994年に施行されて以来、今回の改正で6度目の改正となりますが、全面的な改正は2005年の改正に次ぐ2度目になります。改正会社法は15章266条からなり、改正前の会社法(以下「旧会社法」という。)の13章218条と比べて、条文数だけを見ても大幅に増えています。また、内容面においても、実務的に重要な改正が多いことが特徴です。
 
本資料では、改正会社法の概要及び実務のポイントについてQ&A方式により説明します。
なお、中国の会社形態としては主に有限責任会社と株式会社があるところ、日本企業の中国拠点のほとんどは有限責任会社であるため、本資料では基本的に有限責任会社に関する改正について説明します。
 
※本資料で引用する条文番号は別途記載されていない限り、改正会社法の条文番号を意味します。
※本資料は2024年7月末日時点の情報を前提にしています。
 
I 改正会社法の概要
 
Q1改正のポイント
今回の会社法の改正のポイントは何でしょうか。
 
A1
今回の会社法の改正においては、会社組織・ガバナンス体制に関する改正や、会社資本制度に関する改正など、会社の組織体制や運営実務に直接影響があり得る改正がなされている点が特徴です。例えば、従業員数300人以上の会社において従業員代表董事を設置することが義務付けられたため、対象の会社においては組織体制の見直しをする必要があります。また、旧会社法では登録資本金の払込期限は無制限(長期)とすることができますが、今回の改正により登録資本金の払込期限は会社成立日より5年以内とされました。
また、董事、監事及び高級管理職等の責任について、旧会社法に比べて、詳細かつ広範に規定されるようになりました。そのため、役員責任の観点でも留意をする必要があります。
 
II 会社組織・ガバナンスに関する改正
 
Q2監査委員会の適用の拡大
改正会社法において適用が拡大された監査委員会とはどのような組織でしょうか。
 
A2
監査委員会は、董事により構成され董事会に設置される、監事会の職権を行使する会議体です(69条、121条1項)。
旧会社法においても、上場会社や国有企業において監査委員会を設置する組織形態が認められていましたが、改正会社法は、定款に一般的な会社においても監査委員会を設置することができると規定しました(同条項)。従業員代表の董事も監査委員会の構成員となることができるとされています。
その上で、監査委員会の具体的な構成や要件について、株式会社の監査委員会に関しては、最低構成員数は3名であり、過半数の構成員は、会社において董事以外の役職に就いてはならず、かつ独立した客観的な判断に影響を及ぼすような会社との関係を有していないこと等の内容が規定されていますが(121条2項)、有限責任会社の監査委員会についてはこのような具体的な規定がありません。そのため、監査委員会の構成員が3名以上であることは株式会社の監査委員会と同様に考えることができそうですが、有限責任会社における監査委員会の具体的な構成や要件については必ずしも明確でないところがあります。
 
Q3従業員代表の選任義務
改正会社法により一定規模の会社においては従業員代表の董事を選任する義務があるとされたようですが、どのような制度でしょうか。
 
A3
旧会社法においても、2つ以上の国有企業等が投資して設立した有限責任会社においては、董事会の構成員の中に従業員代表を置くことが義務付けられていました。改正会社法は、従業員代表の参加によるコーポレートガバナンスの強化という観点から、300人以上の従業員を有する会社について、監事会を設置しかつ監事会構成員に従業員代表を入れている会社を除いて、董事会の構成員に会社の従業員代表を含めなければならない旨を新たに規定しました(68条1項、120条)。
そのため、従業員が300人以上雇用されている会社においては、(1)監事会を設置して従業員代表監事を選任するか、又は(2)従業員代表董事を選任するかのいずれかの対応が必要になると考えられます。いずれの体制を採用するかについては、各社の個別事情(意思決定の体制、従業員や工会との関係性等)に基づいて検討する必要があります。
従業員代表董事・監事の選出については、従業員代表大会、従業員大会又はその他の民主的選挙により選出するとされています。この従業員代表の選出手続きについては、「企業民主管理規定」等の既存の規定が存在します。改正会社法においてもこれらの既存の規定がそのまま適用されるかについては明確でないところがありますが、当面は、そうした規定を参照しながら、従業員代表大会等を組織し、運営する必要があると考えられます。
 
Q4 董事会・監事会不設置会社における改正点
株主の人数が比較的少ない、又は規模が比較的小さい有限責任会社における組織体制の規定が改正されたようですが、どのように改正されたのでしょうか。
 
A4
旧会社法において、会社において董事会及び監事会を設置することが原則であるとされつつ、株主の人数が比較的少ない、又は規模が比較的小さい場合には、董事会を設置せずに執行董事のみを選任し、また監事会を設置せずに1名又は2名の監事を選任することができるとされていました(旧会社法50条1項、51条1項)。
まず、改正会社法においては「執行董事」という名称が削除され、株主の人数が比較的少ない、又は規模が比較的小さい場合、董事会を設置せず、1名の董事を置くことができるという規律に変更されました(75条)。この点は、基本的に呼称の変更の問題だけであると考えられます。
また、監事について、旧会社法上では、株主の人数が比較的少ない、又は規模が比較的小さい場合であっても、1名又は2名の監事を置くことが必要とされていました。この点については、まず(i)改正会社法においては、株主の人数が比較的少ない、又は規模が比較的小さい会社において、監事会を設置しない場合には、「1名」の監事を置くことができると規定しています(83条)。そのため、2名の監事を設置することの選択肢を削除しているように思われますが、この点については地方ごとの登記当局の運用として、引き続き2名の監事の選任が容認される可能性があり、今後の実務の動向を注視する必要があります。
また、(ii)改正会社法においては、株主の人数が比較的少ない、又は規模が比較的小さい場合においては、全株主の賛成により監事を置かないこともできると規定しています(83条)。これにより、改正会社法の下では、最も簡易な組織体制として、1名の董事のみ(監事なし)の会社とすることが可能になります。規模の小さい中国子会社においては、このような簡易な組織体制の会社も現実的な選択肢になると考えられます。
 
Q5董事、監事及び高級管理職の責任強化
改正会社法においては、董事、監事及び高級管理職の責任に関する規定はどのように変更されたのでしょうか。
 
A5
改正会社法においては、董事、監事及び高級管理職[1]に関する責任規定が詳細化され、強化されているといえます。具体的には以下のとおりです。
 
(1)忠実義務・勤勉義務の具体化
 
旧会社法においては、董事、監事及び高級管理職の一般的な責任規定として、忠実義務及び勤勉義務が規定されていましたが、その内容は単に「董事、監事、高級管理職は、法律、行政法規及び会社定款を遵守し、会社に対して忠実義務及び勤勉義務を負う」とのみ規定されているだけでした(旧会社法147条1項)。
この点について、改正会社法は、忠実義務及び勤勉義務の内容をより具体的に規定しています。すなわち、忠実義務については、「董事、監事、高級管理職は、会社に対して忠実義務を負い、自己の利益と会社の利益が相反することを避けるための措置を講じなければならず、権限を利用して不当な利益を図ってはならない」と規定し(180条1項)、また勤勉義務については、「董事、監事、高級管理職は、会社に対して勤勉義務を負い、職務執行において会社の最大の利益のために管理者として通常負うべき合理的な注意を尽くさなければならない」と規定しました(同条2項)。
いずれの内容も忠実義務及び勤勉義務の従来の解釈をそのまま踏襲したものであり、実質的な意味において変更はないと考えられますが、董事、監事及び高級管理職の責任を具体化することで、より強化しようとする意図もあると考えられます。
 
(2)利益相反取引に関する規制の強化
 
利益相反取引ついて、旧会社法上は、董事及び高級管理職は会社定款の規定に反し、又は株主会の同意を得ずに、自社と契約を締結し、又は取引を行うことをしてはならないと規定するのみであり(旧会社法148条4号)、董事及び高級管理職の直接取引の禁止について規定していたにすぎませんでした。
この点、改正会社法は、まず董事及び高級管理職だけでなく、監事に対しても利益相反取引に関する規制が適用されています。その上で、利益相反取引の規制の内容として、董事、監事又は高級管理職自身が直接又は間接的に会社と契約を締結し又は取引を行う場合を利益相反取引の規制の対象とした上で、「董事、監事又は高級管理職の近親者、及び董事、監事、高級管理職又はその近親者が直接又は間接的に支配する企業、並びに董事、監事又は高級管理職との間にその他の関連関係[2]を有する関係者が会社と契約を締結し又は取引を行う場合」には、契約の締結又は取引の実施に関連する事項について董事会又は株主会に報告し、かつ会社定款の規定に従い董事会又は株主会の決議により採択しなければならないと規定しました(182条)。
規定の文言は複雑で分かりにくいところでありますが、(i)間接取引についても利益相反取引の規制の対象であることを明確にしたこと、 (ii)間接取引の具体的な内容を規定したこと(例えば、自らが支配する会社等が、自らが董事等として所属している会社と取引をすることは利益相反取引に該当する。)、また(iii)利益相反取引を実施するためには、董事会又は株主会に報告し、かつ会社定款の規定に従い董事会又は株主会の決議を得る必要があることを規定したことが、改正会社法における利益相反取引規制のポイントといえます。
このように利益相反取引の規定が拡充されたことにより、董事等の役職を兼任している会社間における取引についても利益相反取引の規制の対象になる可能性があると考えられます。例えば、ある者Xが、A社の董事を務め、同時にB社の法定代表者を務めており、B社においてXによる支配が認められる場合、B社がA社と取引をすることは、A社との関係では利益相反取引に該当し、上記の利益相反取引を実行するための董事会等における報告と決議が必要になる可能性があると考えられます。
 
(3)商機奪取・競業に関する規制の強化
 
商機奪取・競業に関する規制について、旧会社法上は、董事又は高級管理職が株主会の同意を得ずに、職務上の便宜を利用して自己のため、又は他人のために会社の商機を奪い、在任する会社と同種の業務を自営し、又は他人のために経営することをしてはならないと規定しているのみでした(旧会社法148条5号)。
この点、改正会社法は、董事及び高級管理職だけでなく、監事に対しても商機奪取・競業に関する規制が適用されると規定しています。その上で、商機奪取に関する規制について、董事、監事又は高級管理職が職務上の便宜を利用して自己又は他人のために会社の商機を奪ってはならないことを原則として規定し(183条柱書)、例外として、(i)董事会又は株主会に報告し、かつ会社定款の規定により董事会又は株主会の決議を経て採択された場合、(ii)法律、行政法規又は会社定款の規定により、会社が当該商機を利用することができない場合には、商機奪取として禁止しない旨を規定しました(183条各号)。競業に関する規制については、董事、監事又は高級管理職は、董事会又は株主会に報告せず、かつ会社定款の規定に基づく董事会又は株主会の決議による採択を経ずに、自らが在職する会社と同種の事業を自営し、又は他人のために経営してはならないと規定しています(184条)。
 
なお、改正会社法上、上記の利益相反取引、商機奪取・競業に関する事項を董事会で決議する場合、関係する董事は議決に参加してはならず、その議決権は議決権の総数に含めず、董事会会議に出席する関係のない董事の人数が3名に満たない場合は、当該事項を株主会の審議に付さなければならないと定めています(185条)。
 
(4)第三者責任
 
改正会社法において、董事又は高級管理職の職務執行により第三者に損害を与えた場合、会社は、賠償責任を負わなければならず、それに加えて、董事又は高級管理職に故意又は重大な過失がある場合には、当該董事又は高級管理職も賠償責任を負わなければならないとする規定が新たに設けられています(191条)。
このように、董事及び高級管理職の個人としての第三者に対する責任規定についても強化されている点に注意が必要といえます。
 
(5)董事責任保険に関する規定の新設
 
改正会社法において、会社は、董事の在任期間中、董事のために、その会社職務執行により負担する賠償責任について責任保険に加入することができる旨の規定が新たに追加されています(193条1項)。そして、会社が董事のために責任保険に加入、更新した後、董事会は、株主会に対し責任保険の付保金額、保険引受範囲及び保険料率等の内容を報告しなければならないとされています(同条2項)。
董事に対する責任が強化されることに伴い、董事責任保険(いわゆるD&O保険)について会社法上明確な規定が置かれたことになり、今後このような保険の利用が高まる可能性もあると考えられます。
 
(6)支配株主・実質支配者の責任
 
旧会社法において、会社に対して忠実義務及び勤勉義務を負うのは董事、監事、高級管理職のみでした(旧会社法147条1項)。改正会社法においては、会社の支配株主及び実質的支配者が会社の董事に就任せず、会社の業務を実際に執行している場合、会社の支配株主及び実質的支配者も会社に対して忠実義務及び勤勉義務を負うことを新たに規定しています(180条3項)。
また、改正会社法は、会社の支配株主及び実質的支配者は、董事及び高級管理職に指示して会社又は株主の利益を損なう行為を行わせた場合には、当該董事及び高級管理職と連帯して責任を負うことを新たに規定しています(192条)。
 
Q6全額出資子会社への株主代表訴訟制度の適用
株主代表訴訟制度について、改正会社法においては多重代表訴訟の制度が追加されたようですが、どのような制度でしょうか。
 
A6
旧会社法においても株主代表訴訟制度が設けられていました。すなわち、(1)董事、高級管理職が会社の職務を執行するにあたり、法律、行政法規又は会社定款の定めに違反し、会社に損失をもたらした場合、有限責任会社の株主又は株式会社の適合株主[3]は、書面により監事会又は監事会を設置しない有限責任会社の監事に人民法院への訴訟の提起を請求することができ、監事に当該状況がある場合には、上記株主は、書面により董事会又は董事会を設置しない有限責任会社の執行董事に人民法院への訴訟の提起を請求することができ、(2)監事会、監事会を設置しない有限責任会社の監事、又は董事会、執行董事が株主の請求を受領した後、訴訟の提起を拒否した場合、請求を受領した日から30日以内に訴訟を提起しない場合、又は情況が緊急であり、直ちに訴訟を提起しなければ会社の利益に回復しがたい損害をもたらしうる場合には、上記株主は、会社の利益のため、自己の名義により人民法院に直接訴訟を提起することができるとされています(旧会社法151条)。
改正会社法は、旧会社法上の株主代表訴訟制度を維持した上で、全額出資子会社も株主代表訴訟制度の適用対象としました。すなわち、有限責任会社の株主又は株式会社の適合株主は、会社の全額出資子会社の董事、監事、高級管理職、及び会社の全額出資子会社に損失をもたらした第三者に対して、株主代表訴訟制度に従い、人民法院に訴訟を提起することができ、又は自己の名義により直接人民法院に対して訴訟を提起することができる、とされています(189条4項)。
 
III 登録資本制度に関する改正
 
Q7登録資本金の払込期限
登録資本金の払込みについて法定の期限が設けられたとのことですが、どのように期限が設定されているのでしょうか。また、既存の会社についても影響があるのでしょうか。
 
A7
旧会社法は、登録資本金の払込期限についての制限を設けていませんでした。これに対し、改正会社法では、有限責任会社について、「会社成立の日から5年以内」に自らが引き受けた出資額の全額を払い込まなければならないと規定し(47条)、登録資本金の払込期限を設けています。これは、旧会社法下において、登録資本金を必要以上に高く設定し、又は払込期限を延ばして払込義務を果たさないことで、実際の払込金額が登録資本金と乖離し、取引の安全が害されるという問題が生じていたことに対処するものと思われます。
改正会社法の施行前に設立済みの会社について登録資本金の払込期限が上記期限を超える場合、上記期限内になるよう徐々に調整しなければならず、また、払込期限や出資額が明らかに異常である場合は、会社登記機関は、遅滞なく調整するよう求めることができるとし(266条)、具体的な経過措置は国務院が別途定めるとしています。この点について、2024年7月1日に公布され、同日から施行されている「『会社法』の登録資本金登記管理制度の実施に関する規定」によれば、2024年6月30日までに登記・設立された有限責任会社については、2027年7月1日(以下「基準時」といいます。)から起算して残存払込期限が5年を超える場合には、2027年6月30日までに残存払込期限を基準時から起算して5年以内になるよう払込期限を調整しなければならないとされています。この規定によれば、改正会社法施行日前から存在し、払込期限の調整が必要な有限責任会社の場合は、改正会社法施行日(2024年7月1日)から起算して最大8年(3年+5年)以内に払い込みをする必要があることになります。
 
Q8株主の払込義務の履行期限の繰上
株主の払込期限が到来していない場合においても、払込みが要求される場合があるとのことですが、どのような場合でしょうか。
 
A8
改正会社法は、会社が履行期限の到来した債務を弁済することができない場合、当該会社又は当該債権の債権者は、払込期限がまだ到来していない株主に対し、期限を繰り上げて払い込むよう要求する権利を新たに規定しました(54条)。
このような出資義務の履行期限繰上については、「全国法院民商事裁判業務会議要綱」[4]6条及び「破産法」[5]35条にも同種の規定がありましたが、履行期限の繰上到来を要求できる主体は「債権の期限が到来した債権者」のみとされていました。これに対し、改正会社法は、債権者に加えて会社も履行期限の繰上到来を要求できるとしています。また、要件として、既存の上記各規定では、会社が破産原因を具備していることや破産申立が受理されたこと等が要求されていますが、改正会社法では「期限の到来した債務を弁済することができない」ことのみが要件とされ、適用場面が広がっているといえます。
 
Q9資本準備金による欠損填補・簡易減資
改正会社法においては、欠損の填補や欠損が存在する場合における減資の方法について改正があったとのことですが、どのような改正でしょうか。
 
A9
旧会社法上、資本準備金は会社の欠損の填補に用いてはならないとされていました。これに対し、改正会社法は、資本準備金による欠損の填補を認め、填補を行う際の順位として、まず任意準備金と法定準備金を使用し、なおも填補することができない場合は資本準備金を使用することができると規定しています(214条)。
また、上記の欠損の填補を行った後も依然として欠損がある場合は、登録資本金を減少して欠損を填補することができることが明確にされています。この場合、会社は減資後法定準備金と任意準備金の累計額が登録資本金の50%に達するまでは株主に対して分配を行ってはならず、また、株主の出資金又は株式払込金の払込義務を免除してはならないとされています。また、通常の減資の場合、債権者への通知や公告を行う必要があるのに対し、欠損填補のための減資の場合は、これらの手続は不要であり、減資の決議を行った日から30日以内に新聞上又は国家企業信用情報公示システムで公告すれば足りるとされています。(225条1項ないし3項)
 
IV 持分譲渡に関する規律の変更
 
Q10持分譲渡における同意取得の要否
改正会社法によって、持分譲渡をする場合における他の株主の同意の要否について規律が変更されたとのことですが、どのような変更でしょうか。
 
A10
旧会社法では、有限責任会社の株主が第三者に対して持分譲渡する際に、その他の株主の過半数の同意を得る必要があると定められていました(旧会社法71条2項)。
この点、改正会社法では、当該規定が削除され、持分譲渡について、他の株主による同意を得る必要がなくなり、その他の株主に対しては、持分譲渡の数量、価格、支払方法及び期限等の事項を書面にて通知する義務のみを規定しました。また、改正会社法では、その他の株主は、書面通知で受けた条件と同等な条件において優先買取権を有し、書面通知の受領日から30日以内に回答しない場合、優先買取権を放棄したとみなされると規定されました(84条2項)。改正会社法においては、持分譲渡において他の株主の同意を必要とするこれまでの基本的な規律を変更している点に注意が必要といえます。
一方で、改正会社法においても、会社定款において持分譲渡に関する別段の定めを置くことが認められる旨の規定(84条3項)は維持されており、第三者への持分譲渡について制限する必要がある場合は、事前に合弁契約や会社の定款で譲渡制限について規定をすることが考えられ、実務的にはそのような譲渡制限を当事者間で合意をすることが通常行われることになると考えられます。
 
Q11払込未了出資持分を譲渡する場合
払込が完了していない出資持分を譲渡する(譲り受ける)場合には、どのような点に留意する必要があるでしょうか。
 
A11
改正会社法は、(1)出資の払込期限がまだ到来していない持分を譲渡した場合と、(2)出資(金銭・現物)に瑕疵がある持分を譲渡した場合のそれぞれについて、譲渡人及び譲受人の出資の払込義務の負担を規定しました(88条)。具体的には、(1)の場合は、原則として持分の譲受人が出資の払込義務を負い、譲渡人は、譲受人が期日どおりに払い込まなかった出資について補填責任を負うこととされています。(2)の場合は、譲受人が、瑕疵がある状況の存在を知らず、かつ知ることができないときを除き、出資不足の範囲内において譲渡人と連帯責任を負うとされています。
 
Q12有限責任会社の少数株主が行使する持分買取請求事由の追加
法定の持分買取請求権について、どのような変更があったでしょうか。
 
A12
改正会社法は、有限責任会社の支配株主が株主の権利を濫用し、会社又はその他の少数株主の利益を著しく損なった場合、当該少数株主は、会社に適正な価格でその持分を買い取るよう請求することができる旨を新たに規定し(89条3項)、有限責任会社の株主の持分買取請求権の行使範囲を拡大しました。
この持分買取請求事由の追加により、少数株主に新たな撤退方法及び会社のデッドロックの解決手段を提供し、少数株主の権益を保護することを目的とするものと考えられます。
 
V 改正会社法の適用範囲
 
Q13改正会社法の遡及適用の有無
改正会社法の施行以前に発生した事由については、旧会社法と改正会社法のいずれが適用されるでしょうか。
 
A13
改正会社法は2024年7月1日から施行されていますが、原則として施行以前に生じた法律関係に遡っては適用されません。他方、立法目的等に鑑みて施行以前の法律関係であっても改正会社法を適用した方が適切な場合や改正会社法施行以前は法律の規定が無かったことから改正会社法を適用した方が適切な場合もあります。
そこで、最高人民法院は、「『会社法』の時間的効力の適用に関する若干規定」(以下「本解釈」という。)を公布し(2024年7月1日施行)、法の不遡及の原則を確認し、改正会社法施行前の法律事実により生じる民事紛争事件については原則として当時の法律・司法解釈を適用するとしつつ(本解釈1条1項、2項前段)、例外的に改正会社法施行以前の法律関係に改正会社法を適用する場合を明らかにしました。
例えば、改正会社法の施行前に有限責任会社の株主が株主以外の者に持分を譲渡した場合において、持分譲渡に起因して争いが生じたときについては、改正会社法84条2項(上記Q&A10参照)を適用するとしています。また、もし会社が改正会社法の施行以前に資本準備金を用いて会社の欠損を填補する会社決議をした場合において、当該決議の効力について争いが生じたときは、改正会社法214条が適用され当該決議は有効とされる可能性があります(上記Q&A9参照)。
 
本資料の利用についての注意・免責事項
 本資料は、森・濱田松本法律事務所が2024年7月末日までに入手した中国の法令等の公開情報に基づき作成しており、その後の法令改正等を反映していません。また、本資料に掲載する情報について、一般的な情報・解釈がこれと同じであることを保証するものではありません。本資料は参考情報の提供を目的としており、法的助言を構成するものではありません。
 日本政府、外務省、在中国日本国大使館、領事館及び森・濱田松本法律事務所は、本資料の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付随的又は懲罰的損害等について、一切の責任を負いません。
 
以上