中国の民事執行・保全制度について
令和7年6月4日
森・濱田松本法律事務所外国法共同事業
(令和6 年度受託法律事務所)
(令和6 年度受託法律事務所)
本資料は、中国[1]の民事執行及び保全制度の概要をQ&A方式により説明するものです。
I. 執行制度
Q1.民事執行制度の基本
中国の民事執行制度の基本的な法源と枠組みについて教えてください。
A1
民事判決の執行は人民法院によって行われますが、中国の民事執行についての基本的なルールは「民事訴訟法」(以下「民訴」という)において規定されています。また、民事執行に関する詳細なルールは「『民事訴訟法』の適用に関する解釈」(以下「民訴解釈」という)、「『民事訴訟法』の執行手続の適用における若干問題に関する解釈」(以下「執行手続解釈」という)、「人民法院の執行業務に関する若干問題についての規定(試行)」(以下「執行規定」という)等の執行関連の司法解釈において規定されています。
民事執行に関するルールは大きく、執行の一般的規定(管轄人民法院、執行異議、執行業務の実行方法や委託執行等)、執行の申立及び移送、執行措置、執行の停止及び終結に分けられます。
Q2.執行の申立
民事執行を申し立てようとする場合、どのような書面が必要で、またどの人民法院に対して申し立てをすれば良いでしょうか。
A2
法的効力を生じた民事判決及び民事裁定の財産に関する部分について、第一審人民法院又は第一審人民法院と同級の被執行財産所在地の人民法院が執行し、その他の法律文書については、被執行人の住所地又は被執行財産の所在地の人民法院が執行するとされています(民訴235条)。
また、執行の申立に際して、通常、以下の書面を執行人民法院に提出する必要があります。また、執行を申し立てる人民法院が被執行財産所在地の人民法院である場合、当該人民法院の管轄区に執行可能財産が存在することを証明する資料を提出する必要もあります(執行規定18条、執行手続解釈1条)。
- 執行申立書(執行申立の理由、事項、執行目的物及び執行申立人が把握している被執行人の財産状況を含む)
- 効力を生じた法律文書の副本(権利義務の主体と給付の内容が明確であること)
- 執行申立人の身分証明書(自然人の身分証明書、パスポート等の身分証明、法人の営業許可書の副本と法定代表者の身分証明等)
- 相続又は権利承継の証明文書(相続人又は権利承継人が執行を申し立てる場合のみ)
- その他提出すべき文書又は証明書
Q3.執行事件の管轄
同一の執行事件について2つの人民法院が管轄権を有する場合、どのようにして管轄人民法院が確定されるのか、また当事者による人民法院の管轄権に関する異議の申立と人民法院による審査はどのような形で行われるのでしょうか。
A3
人民法院は、立件前に管轄権を有するその他の人民法院がすでに立件していることを発見した場合は、重複して立件してはならず、立件後に管轄権を有するその他の人民法院がすでに立件していたことを発見した場合は、その事件を取り消さなければならないとされており、すでに執行措置を講じている場合には、その管理する財産を先に立件した執行人民法院に引き渡して処理させなければならないとされています(執行手続解釈2条)。従って、同一の執行事件について、2つの人民法院のいずれも管轄権を有する場合、先に立件した人民法院が執行事件を処理することになります。
当事者が管轄権に関して異議を申し立てしようとする場合は、執行通知書を受け取った日から10日以内に執行人民法院に異議を申し立てる必要があります。執行人民法院は、審査を経て異議の成立を認める場合には、執行事件を取り消し、かつ当事者に管轄権を有する人民法院に執行を申し立てるよう告知しなければならず、異議が成立しない場合には、棄却の裁定を行うことになります。また、当事者が裁定について不服がある場合には、一級上の人民法院に不服審査を申し立てることができますが、管轄権異議審査及び不服審査期間においては、執行が停止しないことに留意する必要があります(執行手続解釈3条)。
Q4.執行人民法院の違法な執行行為に関する救済
執行人民法院の執行行為が法律の規定に違反する場合、当事者と利害関係者はどのような救済手段を有するのでしょうか。
A4
当事者又は利害関係人は、執行行為が法律の規定に違反すると考える場合には、執行人民法院に書面異議を提出することができます。執行人民法院は、当該書面異議を15日以内に審査し、理由が成立する場合は、取消又は変更の裁定を下し、理由が成立しない場合は、棄却の裁定を下しますが、当事者又は利害関係人が裁定を不服とする場合には、裁定の送達日から10日以内に、一級上の人民法院に不服審査を申し立てることもできます(民訴236条)。但し、管轄権異議のプロセスと同様に、執行異議審査及び不服審査期間においては、執行が停止しないことに留意する必要があります(執行手続解釈9条)。
一方、当事者又は利害関係人が執行異議に関する裁定について不服審査を申し立てる場合、書面の申立書類を提出しなければなりませんが、当該書面書類は執行人民法院を経由して提出することも、又は直接に執行人民法院の一級上の人民法院に提出することもできます(執行手続解釈7条)。また、不服審査の申立について、一級上の人民法院は、当該申立を受領した日から30日以内(特別な事由により最大30日間の延長が認められる)に審査を完了させる必要があります(執行手続解釈8条)。
Q5.執行人民法院の執行怠慢に関する救済
執行人民法院が執行申立書を受け取ってから一定期限を過ぎても執行を行わない場合に、執行申立人はどのような救済手段を有するのでしょうか。
A5
人民法院が執行申立書を受領した日から6か月を過ぎても執行を行わない場合は、執行申立人は一級上の人民法院に執行を申し立てることができます。一級上の人民法院は、審査を経て、元の執行人民法院に対し一定の期間内に執行するよう命じることができるほか、自ら執行することを決定し、又はその他の人民法院に執行を命じる場合もあります(民訴237条)。元の執行人民法院が一級上の人民法院からの期限付き執行命令を受けたにもかかわらず、正当な理由なく同期限内に執行を完了しない場合、一級上の人民法院は、自ら執行する旨又は当該管轄区のその他の人民法院に執行を命じる旨の裁定を下すことになります(執行手続解釈12条)。
また、執行人民法院の以下のいずれかの執行怠慢行為に対しても、一級上の人民法院は、執行申立人の申請に基づき、執行人民法院に対し期限を定めて執行するよう命じるか、又は執行人民法院を変更することができます(執行手続解釈10条)。
- 執行申立の時点で被執行人が執行可能な財産を有しているにもかかわらず、執行人民法院が執行申立書を受領した日から6か月を過ぎても当該財産に対する執行を完了しない場合
- 執行の過程中、被執行人の執行可能な財産を発見し、執行人民法院が財産を発見した日から6か月を過ぎても当該財産に対する執行を完了しない場合
- 法律文書により確定された行為義務の執行について、執行人民法院が執行申立書を受領した日から6か月を過ぎても法により相応の執行措置をとらない場合
- その他の執行可能な条件を備え、かつ6か月を過ぎても執行されない場合
Q6.訴外第三者による執行目的物に関する異議の申立て
執行中、訴外第三者が執行目的物について、所有権や執行目的物の譲渡もしくは引渡を阻むことのできるその他の実体権利を有する場合に、訴外第三者はどのようなプロセスで執行目的物に関する異議の申立てを提出することができ、当該申立てはどのようなプロセスで人民法院の審査を受けるのでしょうか。
A6
訴外第三者が執行目的物に対し所有権を主張し、又は執行目的物の譲渡もしくは引渡を阻むことのできるその他の実体権利を有する場合は、執行人民法院に対し書面異議を申し立てることが可能です(執行手続解釈14条)。但し、当該執行目的物の執行手続が終結する前に異議を申し立てなければならないことに留意する必要があります(民訴解釈462条)。
訴外第三者の執行目的物に対する異議について、人民法院は、当該異議を受領した日から15日以内に審査する必要があり、理由が成立する場合は、当該目的物に対する執行を停止する旨を裁定し、理由が成立しない場合は、棄却する旨を裁定することになります。また、訴外第三者又は当事者は、裁定に不服があり、原判決又は裁定に誤りがあると認める場合には、裁判監督手続により処理し、原判決又は裁定と関係がない場合には、裁定の送達日から15日以内に、人民法院に訴訟を提起することができます(民訴238条)。
また、訴外第三者から異議を申し立てられた執行目的物の処理について、当該異議の審査期間中において、執行人民法院は執行目的物を処分することはできませんが、訴外第三者から、十分かつ有効な担保が提供される場合には、異議申立目的物に対する封印、差押え又は凍結の解除を許可することができます。その場合でもさらに執行申立人から、十分かつ有効な担保の提供をもって執行の継続が請求された場合に、異議申立目的物に対する執行を継続しなければなりません(執行手続解釈15条)。
Q7.執行申立の期間
執行申立人は、いつまでに執行を申し立てなければならず、またその期間はいつから起算されるのでしょうか。
A7
執行を申し立てる期間は、2年です。この期間については訴訟時効の停止及び中断に関する規定が適用されます。また、当該期間の起算点について、民事判決等の法律文書が履行期間を定めている場合に、当該履行期間の最終の日(分割した履行期間を定めている場合には、所定の各履行期間の最終の日)から起算しますが、法律文書が履行期間を定めていない場合は、法律文書の効力発生日から起算するとされています(民訴250条)。
Q8.執行手続の開始と執行措置
執行人民法院は、執行申立書を受け取り、又は執行書の移送・交付を受ける場合、通常どのように執行手続を開始し、どのような執行措置を講じることができるのでしょうか。
A8
執行人民法院は、執行申立書を受け取る場合、又は執行書の移送・交付を受けた場合、その内容を審査し、7日以内に受理するかどうかを決定します(執行規定16条)。また、執行が受理された場合、人民法院は、執行申立書を受け取るか、又は執行書の移送・交付を受けてから10日以内に、被執行人に対して、執行通知を発行し、被執行人に法律文書で確定された義務の履行を命じた上で、民訴264条に定める履行遅延利息又は履行遅延金の負担を通知します(執行規定22条)。被執行人が執行通知書のとおりに効力を生じた法律文書により確定された義務を履行しない場合、執行人民法院は、遅滞なく執行措置を開始しなければなりません(執行規定24条)。
人民法院が講じることができる執行措置として、被執行人による財産状況の報告命令、被執行人の財産状況の調査照会、財産の差押え・凍結・振替、換価、収入の差押え・引出、財産の封印・競売・売却、財産隠匿地等の捜査、指定財物又は証票の引渡、家屋の強制明渡又は土地の強制退去、指定行為の強制執行、出国制限、義務不履行情報の信用情報システムへの記録及びメディアを通じた公表、高額消費の制限等があります(民訴252条~266条)。
Q9.被申立人の財産に対する調査
被申立人の財産に対する調査は、通常どのように行われるのでしょうか。
A9
「民事執行における財産調査の若干問題に関する規定」(以下「財産調査規定」という)によれば、被申立人の財産に対する調査は、通常以下のような方法で行われます。
- 執行申立人は、被執行人の財産の端緒を提供しなければなりません。財産の端緒が明確で具体的である場合、人民法院は7日以内に調査し確認しなければならず、緊急の場合は3日以内に調査し確認しなければなりません(財産調査規定1条及び2条)。
- 人民法院は、執行申立人の申請又は職権に基づき、被執行人に対して財産の状況を報告するよう命じる財産報告命令を発出します(財産調査規定3条)。被執行人は、財産報告命令に記載された期限内に、収入、銀行預金、現金、金融商品、有価証券、土地使用権、建物等の不動産、交通運輸手段、機械設備、製品、原材料等の動産、債権、株式、投資権益、基金持分、信託受益権、知的財産権等の財産性権利を含む財産状況を人民法院に書面で報告しなければなりません(財産調査規定5条)。また、被執行人は、財産を報告した後に、その財産の状況に変更が生じ、執行申立人の債権の実現に影響をもたらす場合は、財産に変更が生じた日から10日以内に人民法院に補充報告を行わなければなりません(財産調査規定7条)。
- 人民法院は、ネットワーク執行調査監視システム、実地調査等の方式により被執行人、関連する企業又は個人に対して被執行人の身元情報及び財産情報の調査を行います(財産調査規定12条)。
執行人民法院は、被執行人の財産状況調査や被執行人の報告により、被執行人が執行可能な財産を有することが判明した場合、どのような手続を踏まえ、どの範囲内で被申立人の財産に対して執行措置を講じることができるのでしょうか。
A10
執行人民法院は、被執行人に対する財産状況調査や被執行人の報告により、被執行人が執行可能な財産を有することが判明した場合、以下の手続を踏まえて、被執行人の財産の差押え・凍結・振替、換価、収入の差押え・引出、財産の封印等、指定財物又は証票の引渡、家屋の強制明渡又は土地の強制退去等の執行措置を講じることができます(「人民法院の民事執行における財産の封印・差押・凍結に関する規定」(以下「財産封印規定」という)1条、民訴253条、254条、258条)。
- 裁定の作成:執行人民法院は、財産の差押え、凍結、押収などの措置を取る際に、まず裁定を下し、かつ裁定書を被執行人及び執行申立人に送達しなければなりません。
- 執行協力通知書の発出: 関連する企業又は個人の協力が必要とされる場合には、人民法院は、執行協力通知書を作成し、裁定書副本と共に執行協力者に送達します。
- 封印され、差し押さえられた財産について、競売又は売却が必要な場合は、競売又は売却により現金化し、執行申立人に分配します。
また、執行措置の範囲について、執行人民法院は、以下の範囲内で被執行人の財産に対する執行措置を講じることができます(民訴254条、255条)。
- 被執行人の銀行口座の引き落とし額は被執行人が履行すべき義務の範囲を超えてはならず、かつ被執行人及びその扶養家族の生活必需費用は、留保しなければなりません。
- 被執行人が義務を履行しなければならない分の財産を封印し、差し押さえ、凍結し、競売し、売却することができますが、被執行人及びその扶養家族の生活必需品は、留保しなければなりません。
被申立人等が執行人民法院の執行行為を妨害する場合、執行人民法院は、被申立人に対してどのような処罰を与えることができるのでしょうか。
A11
被申立人等が執行人民法院の執行行為を妨害する場合、執行人民法院は過料、拘留に処することができ、犯罪を構成するときは、法により刑事責任を追及することができます(民訴114条)。また、調査、執行に協力する義務を負う法人等が執行人民法院の執行行為を妨害する場合、人民法院は、その法人等に協力義務の履行を命ずるほか、過料に処することができ、その法人等の主たる責任者又は直接責任者に対しても過料に処することができます(民訴117条)。なおも協力義務を履行しない場合は、拘留に処することができ、併せて監察機関又は関係機関に対して規律処分を行う旨の司法建議を提出することができます(民訴117条)。
過料の金額について、個人に対しては10万元以下、法人等に対しては5万元以上100万元以下となります(民訴118条)。また、拘留の期間は15日以下ですが、拘留期間において、被拘留者が誤りを認め、かつ改めた場合には、人民法院は、拘留の期限繰上解除を決定することができます(民訴118条)。
Q12.被申立人に対する出国制限と高額消費の制限
一定の場合には出国制限や高額消費の制限をすることも可能と聞きました。被申立人に対する出国制限や高額消費の制限はどのような法的要件を満たさなければならないでしょうか。また、どのように当該制限措置を解除することができるのでしょうか。
A12
出国制限について、被執行人が法律文書により確定された義務を履行しない場合、人民法院は、執行申立人の申立又は人民法院の職権により、被執行人に対し、出国制限を講じることができます(民訴266条、執行手続解釈23条)。
また、高額消費の制限について、「被執行人の高額消費及び関連消費の制限に関する若干規定」(以下「高額消費制限若干規定」という)1条によれば、 信用失墜被執行人名簿に掲載された被申立人に対しては、人民法院は必ず制限消費措置を取らなければなりません。また、被申立人が執行通知書に指定された期間どおりに効力を生じた法律文書で確定された給付義務を履行しない場合、人民法院は、被申立人が消極的に履行を避ける行為、執行を回避又は抗拒する行為、及び被申立人の履行能力などの要素を考慮して、高額消費及び生活又は経営に必須でない消費を制限する措置を取ることができます(高額消費制限若干規定1条及び2条)。
一方、出国制限や高額消費措置の解除について、被執行人が法律文書で確定された全ての債務を履行した場合、執行人民法院は速やかに出国制限措置や高額消費措置を解除しなければなりません(執行手続解釈25条、高額消費制限若干規定9条)。また、被執行人が十分かつ有効な担保を提供し、又は執行申立人が同意した場合、出国制限措置や高額消費措置を解除することができます(執行手続解釈25条、高額消費制限若干規定9条)。
Q13.被執行人の信用失墜被執行人名簿への掲載
執行人民法院による被執行人の信用失墜被執行人名簿への掲載要件、掲載の期限・内容と信用失墜情報の削除要件は何でしょうか。
A13
まず、信用失墜被執行人名簿への掲載要件について、被執行人が効力を生じた法律文書で確定された義務を履行せず、かつ以下のいずれかの状況に該当する場合、人民法院はその者を信用失墜被執行人名簿に掲載しなければなりません(信用失墜被執行人名簿情報の公示に関する若干規定」(以下「信用失墜規定」という)1条)。
- 履行能力があるにもかかわらず、効力を生じた法律文書で確定された義務の履行を拒否する場合
- 証拠の偽造、暴力、脅迫などの方法により執行を妨害、抗拒する場合
- 虚偽訴訟、虚偽仲裁、又は財産の隠匿、移転などの方法により執行を回避する場合
- 財産報告制度に違反する場合
- 消費制限令に違反する場合
- 正当な理由なく執行和解協議を履行しない場合
そして、信用失墜被執行人名簿への掲載期限について、被執行人が上記(1)に該当する場合は、特に掲載期限がなく、上記の(2)から(6)に該当する場合、掲載期限は2年です。但し、被執行人が暴力や脅迫の方法で執行を妨害、抗拒する情状が重大である場合、又は複数の失信行為がある場合、掲載期限をさらに1年から3年の延長が可能です(信用失墜規定2条)。
また、信用失墜被執行人名簿の掲載内容は、以下の通りです(信用失墜規定6条)。
- 法人又はその他の組織の場合:名称、統一社会信用コード(又は組織機構コード)、法定代表者又は責任者の氏名
- 自然人の場合:氏名、性別、年齢、身分証明書番号
- 効力を生じた法律文書で確定された義務及び被執行人の履行状況
- 被執行人の失信行為の具体的な状況
- 執行の根拠となる文書の作成機関と文号、執行案件番号、立件時間、執行法院
- 人民法院が記載・公開すべきと判断した、国家機密、商業機密、個人のプライバシーに関わらないその他の事項
信用失墜情報の削除要件について、掲載期限が設定されている場合、期限が満了した後の3営業日以内に、人民法院は信用失墜情報を削除します。また、以下のいずれかの状況に該当する場合、人民法院は3営業日以内に信用失墜情報を削除します(信用失墜規定10条)。
- 被執行人が効力を生じた法律文書で確定された義務を履行した場合、又は人民法院が執行を完了した場合
- 当事者が執行和解協議を達成し、履行が完了した場合
- 執行申立人が書面で信用失墜情報の削除を申請し、人民法院がこれを承認した場合
- 執行手続きを終結した後、ネットワーク執行調査システムを通じて被執行人の財産を2回以上調査し、執行可能な財産が見つからず、執行申立人又は他の者が有効な財産の手がかりを提供しない場合
- 審判監督又は破産手続により、人民法院が法に基づいて信用失墜被執行人に対する執行を中止する場合
- 人民法院が法に基づいて執行を行わないと裁定した場合
- 人民法院が法に基づいて執行を終結した場合
Q14.執行の中断と終結
執行人民法院は、どのような状況において執行の中断又は終結を裁定するのでしょうか。また、立件日から何日以内に執行事件を終結させなければならないのでしょうか。
A14
次に掲げる状況のいずれかに該当する場合には、人民法院は、執行の停止を裁定しなければなりません(民訴267条、執行規定59条)。
- 申立人が執行を延期してよい旨を表示したとき
- 訴外第三者が執行の目的物について、確かに理由がある異議を申し立てたとき
- 当事者の一方の公民が死亡し、相続人が権利を相続し、又は義務を負うことを待つ必要のあるとき
- 当事者の一方の法人又はその他の組織が終了し、なお権利及び義務の承継者が確定していないとき
- その他人民法院が執行を停止すべきであると認める状況のあるとき(例えば、審判監督手続に基づいて再審又は再審理を行う案件)
また、次に掲げる状況のいずれかに該当する場合には、人民法院は、執行の終結を裁定します(民訴268条、執行規定61条)。
- 申立人が申立を取り下げたとき
- 執行の根拠となる法律文書が取り消されたとき
- 被執行人である公民が死亡し、執行可能資産がなく、かつ義務を負う者がいないとき
- 扶助費、扶養費又は養育費の請求事件の権利者が死亡したとき
- 被執行人である公民が生活困難により、借入金を弁済する能力がなく、収入源がなく、かつ労働能力を喪失したとき
- その他人民法院が、執行を終結させるべきであると認める状況のあるとき(例えば、執行中に、被執行者が人民法院により破産宣告された場合)
なお、執行人民法院は、通常立件日から6ヶ月以内に執行事件を終結させなければなりませんが、執行が停止された期間は除外されます。また、特別な事情があり延長を必要とする場合は、当該人民法院の院長の承認を取得する必要があります(執行規定63条)。
II. 保全制度
Q15.訴訟・仲裁前の財産・行為保全
訴訟提起・仲裁申立前の保全申請においてはどのような要件を満たさなければならないのでしょうか。また、どの人民法院に対して申請すれば良いのでしょうか。
A15
利害関係人は、状況が緊急で、直ちに保全の申立をしなければその者の合法的権益が回復困難な損害を受けるおそれがある場合には、訴訟を提起し、又は仲裁を申し立てる前に、被保全財産の所在地、被申立人の住所地の、又は事件の管轄権を有する人民法院に保全措置を講じることを申し立てることができます。但し、訴訟・仲裁前の保全申立において、担保を提供する必要があり、担保を提供しない場合には、当該人民法院が申立を却下する旨を裁定することになります。また、申立人が人民法院により保全措置が講じられてから30日以内に法により訴訟を提起せず、又は仲裁を申し立てない場合には、人民法院は、保全を解除しなければならない点に留意する必要があります(民訴104条)。
Q16.訴訟中の財産・行為保全
訴訟中に人民法院による保全措置を実施するためには、どのような要件を満たさなければならないのでしょうか。
A16
人民法院は、当事者の一方の行為又はその他の原因によって、判決が執行困難となり、又は当事者にその他の損害をもたらすおそれのある事件については、相手方当事者の申立に基づいて、その財産に対する保全を行い、それに一定の行為をするよう命じ、又はそれに一定の行為をしないよう禁止する旨を裁定することができます。当事者が申立を提出しない場合において、必要なときは、人民法院は、保全措置を講じる旨を裁定することもできます。また、人民法院が保全措置を講じる場合には、申立人に担保の提供を命ずることができますが、担保提供命令にもかかわらず申立人が担保を提供しない場合には、申立を却下する旨を裁定することになります(民訴103条)。
Q17.被申立人の財産に対する調査
財産保全では、人民法院による被申立人の財産に対する調査は、通常どのように行われるのでしょうか。
A17
人民法院が保全の裁定を出した場合、当該裁定の執行過程において、保全申立人は、ネットワーク執行調査監視システムをすでに確立した執行人民法院に対し、当該システムによる被保全人の財産調査を書面により申請することができます。保全申立人から調査申請が出された場合、執行人民法院は、ネットワーク執行調査監視システムを利用して、保全を裁定した財産又は保全金額の範囲内の財産につき調査を行い、かつ相応の封印、差押、凍結措置をとることができます。なお、人民法院は、ネットワーク執行調査監視システムを利用して、保全可能財産を探し出せなかった場合、保全申立人に書面によって知らせなければなりません(「人民法院による財産保全事件の処理に関する若干問題についての規定」(以下「財産保全事件処理規定」という)11条)。
Q18.保全申請における担保の提供
保全申請に関して、担保提供の要否、担保の金額はどのように決定されるのでしょうか。また、担保提供をする場合に、どのような形式で担保を差し出す必要があるでしょうか。
A18
- 担保提供の要否・担保の金額の確定
訴訟中、人民法院は、申立又は職権により保全措置を講じる場合、事件の具体的状況に基づき、当事者が担保を提供すべきか否か、及び担保の金額を決定しなければなりません(民訴解釈152条)。また、人民法院は、保全申立人に財産保全担保の提供を命じる場合、担保金額が保全請求額の100分の30を超えないこととされ、保全を申し立てる財産が係争物である場合、担保金額は係争物の価値の100分の30を超えないこととされています(財産保全事件処理規定5条)。
- 担保の形式
- 担保書、保証書
第三者が財産保全のため人的担保を提供する場合、人民法院に保証書を提出しなければなりません。保証書には、保証人、保証方式、保証範囲、保証責任の負担等の内容を明記し、かつ関連する証拠資料を付さなければなりません(財産保全事件処理規定6条)。
- 保険契約
- 保証状
Q19.保全申請の審査期限
当事者又は利害関係人の保全申請について、人民法院は、いつまでに保全の裁定を下さなければならないのでしょうか。
A19
人民法院は、財産保全の申立を受けた後、原則として5日以内に裁定を出さなければならず、また担保の提供を必要とする場合、担保提供後5日以内に裁定を出さなければなりません。また、保全措置を講じる旨を裁定した場合、5日以内に執行を開始しなければなりません。
なお、訴訟・仲裁前の財産・行為保全、又は状況が緊急であるものについては、人民法院は、48時間以内に裁定を出さなければならず、保全措置を講じる旨を裁定した場合、直ちに執行を開始しなければなりません(民訴103、104条、財産保全事件処理規定4条)。
Q20.保全措置の解除 人民法院は、保全措置を講じた後、どのような状況において、保全の解除を裁定しなければならないのでしょうか。
A20
保全措置を講じる旨の裁定をした後、(1)保全が誤りであるとき、(2)申立人が保全の申立を取り下げたとき、(3)申立人の訴え又は訴訟上の請求が効力を生じた裁判により却下され、又は棄却されたとき、(4)被保全人が保全解除を申し立て、人民法院が審査の結果、法律規定に合致すると判断したとき、(5)訴訟前財産保全措置がとられた後30日以内に法により訴訟を提起せず、又は仲裁を申し立てないとき、(6)人民法院が保全を解除すべきと認めるその他の事由のいずれかの事由に該当する場合、人民法院は、保全を解除する旨の裁定をしなければなりません(民訴解釈166条、財産保全事件処理規定23条)。
Q21.財産保全の期限 財産保全においては、保全財産の種類に応じて、どのような保全期限の上限が設定されているでしょうか。
A21
財産保全において、人民法院が被申立人の銀行預金を凍結する期間は1年を超えてはならず、動産を封印し、差し押さえる期間は2年を超えてはならず、不動産を封印し、その他の財産権を凍結する期間は3年を超えてはならないとされています(民訴解釈485条)。
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